第8話 復讐者編・下より‐雷鳴の真相‐
 双眸を見開いて、ソラは硬直していた。
 様々な感情が、胸中に渦を巻く。爆発的に加速した鼓動は、一向に落ち着く気配がない。
 まさか、そんな悪夢が。あって良いのか。
「ちょ、ちょっと待てよ! なんで――」
 言い掛けたウィズが、はっと大きく息を呑む。どうやら、彼も寸分違わず思い至ったらしい。
「いや、どういう事? この際、誰でも良いから説明してよ。ぼく、頭パンクしそうなんだけど」
「……おれもだ」
「わたしもです……」
 クラウス、カイン、キャロが話に付いて来られないのは至極当然と言えるだろう。彼らは、ソラ達やリカルドとは異なる。ごく一般的な知識のみを持ち合わせた、ごく普通の人間達なのだ。
 故にソラは彼らの仲間として、彼らへの説明が必要不可欠と考えた。しかし、その説明役を果たして自分が買って出て良いものか。
「説明なら、僕と兄貴がするよ。――僕らは魔法使いで、ミシェルの兄だから」
 ソラやウィズの想いを汲み取ってか、シエルは言う。彼とアシュタルの瞳は、共に憂いと一種の諦めを孕んでいる様にソラには見えた。
「ミシェルが殺された経緯を聞いた君達なら、ロベルトと直接対峙した君達なら、良く分かってると思う。封印が施されていない状態のイヴェール人が、どれだけ危険な存在なのか」
「うん……。ミシェル君は『断罪』なんてされなくちゃいけないくらい、村の皆から恐れられて……」
「ロベルトは、ぼく達が練った策も仕掛けた攻撃も全部無意味なものに変えた」
 キャロとクラウスが、各々の面持ちで語る。
「だが、これとマグノリアが邪光使いだという話はどう繋がる? 何故、分かった?」
 当たり前の質問をカインがすると、アシュタルが口を開いた。憂いの瞳は、そのままに。
「邪光の魔法は、魔法使いの能力の中でも最も問題視されている。……邪光使いは、他の誰よりも先に封印の儀式の対象者になる」
 邪光使いのアシュタルが言えば、その重みは増幅する。日頃は殆ど抑揚のない声が、今は心なしか微かな震えを帯びていた。
「アシュタル……それは、どうして?」
 静かに目を伏せたアシュタルを気遣う素振りを見せつつ、神妙に問うクラウス。そんな彼の問いには、シエルが応じた。多分、クラウス同様にアシュタルを気遣った末に。
「兄貴みたいにちゃんと封印が機能してる者には使えない、邪光使い固有の力があるんだよ」
 一呼吸置いて、シエルは低く告げる。
「死者を一時的に蘇らせたり、死者の魂を自分の体内に取り込むおぞましい力がね」
「なっ……死者を……!」
 たちまち絶句する、カイン達。言葉らしい言葉を発せないでいる3人に、リカルドがここまでの説明を大雑把に纏めて聞かせる。
「マグノリアは邪光の力を最大限に使って、ミシェルを生かしてるって事だ。ちなみに、マグノリアとミシェルが繋がってんのは既に俺様が調査済みだ。間違いはねえよ」
 ロベルト=バスティード、マグノリア=ローゼンバーグ。そして、ミシェル=ウォーロック。いずれも、封印が破れたイヴェール人達。
 あの時マグノリアがロベルトに向けて放った台詞に、ようやく理解が及んだ。

『これ以上、余計な真似はするなと。奴らは、自分の獲物だと。そう訴えておられますが? 』

 恐らく、ミシェルはマグノリアの力を借り――シエルやアシュタル、ソラやウィズを狙っている。
 途方もない絶望感が、濁流の如く胸に押し寄せる。皆が口を閉ざし、部屋はまた静けさに覆われた。どうしようもなく、重い重い静けさが。


‐終‐


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