人魚の雫 00 波がザザア、と引く音。 海猫の鳴き声。 少年の顔を照らす朱い西日。 「───♪────♪」 声変わりも終えていない、幼い男の子の歌声が響く。 それにそっと耳を傾ける少年。 天使のような歌声が、青年にさしかかる前の少年の鼓膜に優しく届く。 波辺で並び座る彼らを、夕日が照らし。 二人の繋がれた手をさらす。 幼い男の子の足から先には、青白く光る綺麗な鱗があり、それはまるで魚のそれだった。 少年の足から下にはすらりと伸びたふたつの足があり、陸の生き物であることを示していた。 二人は違う世界に住みながら、少しの間同じ時間を過ごしていた。 それはとても幸せなもので、二人は凪いだ海のように穏やかで暖かい気持ちだ。 二人の髪を、そよそよと海風がなでる。 天使の男の子の歌声が止み、少年に向かってほほえみが向けられる。 それにほほえみ返して、少年はそっと男の子を抱き寄せた。 悠久の幸せ。 それを感じさせる光景。 穏やかな波が、押し引きを繰り返す。 ザア、ザア。 ザア、ザア───。 [次へ#] [戻る] |