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小説
<アツヤと士郎>未熟




もう生きたくないから死ぬと毎度のこと士郎が言う。
その度に俺は死ぬ勇気もないくせにと士郎を煽る。


士郎は鬱ぽっい。
“ぽっい”というのは医者に言われてないからこいつが鬱とまだ決まったわけじゃない。
病院に行けば鬱だと言われるのは確実だと思うが士郎は行きたくないと一点張りだ。
何でも診察するときの注射が苦手だかなんだってさ。
呆れて屁もでない。


「アツヤ…、どうしよう、悪魔が早く死ねと僕を脅してるよ…。
聞こえるんだ。気持ち悪いよアツヤ…。」


「なあ、兄ちゃん早く病院行ってくれよ。
んなの俺に言われても知らねーし。
てか悪魔だと言う兄ちゃんが気持ち悪い。」



そんな、と士郎は眉間に紫波を寄せ涙をポロポロと溢す。
だって気持ち悪いもん。
士郎はいつでも冷静沈着で、感情的で我を忘れる俺より頼りになる存在だ。
それなのに、今は感情的になって悪魔悪魔と呟く士郎がいつもの頼りになる兄貴が弱くなって醜い。


これだけじゃない。
まだ悪魔と呟いてるだけが可愛いと思う時が来たんだ。
それはサッカーの練習を終え、ロッカールームで着替えてる時だった。
友達と駄弁ってると士郎が肩をちょんちょんと人差し指で突っついてくる。


「ねぇねぇ、アツヤ来て。」


サッカーの相談かなと着替え終え士郎の行く跡について行く。
ここなら誰も居ないと士郎が周りを確認し、体育館裏にたどり着いた。


「ほら見てアツヤ。」


練習で疲れてリアクションは出来ないと思いながら士郎に出された片腕を見る。
その出された士郎の片腕にはうっすらとした溝の傷が幾つもあった。


「何だよ、サッカーで転けたのか?だらしねーな。」


「違うよ。自分で切ったんだ。」


「はあ?」


目を点になった俺を見て、照れて笑う士郎。
切った、何で?
言葉が思いつかず口を閉じる。


「切ると落ち着くんだ。アツヤにだけ教えてあげる。
他の子に言っちゃダメだからね。」


士郎の傷がついている腕の指で俺の指とで指切りげんまんをする。

傷ついた腕を長袖で隠し、じゃあねと士郎は走り去って行ってしまう。
俺は体育館裏で置き去りにされ、去って行く士郎が地面ごと歪んで崩れて見えてくる。
気を落ち着かせようと切っている士郎を想像するだけでどことなく痛みが胸に込み上げてきやがった。
ああ気分悪いの残してきやがって。
死んでしまえ、死に損ない。
士郎を恨む自分にやるせなくなるのにため息をついた。



士郎が本格的に病んでから俺と話すことはなくなった。
いつも不幸自慢してくる癖に部屋に籠って出てこない。
兄ちゃんと言いながらノックすると、中からドンと破壊るすようにドアが叩かれびっくりする。
士郎の症状の酷さに目の当たりにして心配するのと、せっかく心配して来たのにドアを叩き返すとか何様なんだよ!と苛立つ心がぐるぐる回る。


士郎がサッカーの練習も来なくなり、つまんないなと地団駄を踏む。
俺のイライラも募り、こっちも鬱になりそうだ。
試合には負けるわ、サッカーのメンバーともめるわ何もかも嫌になった。

くっそと物を投げ壁を叩く。
そこで俺は士郎が腕を切ったことを思い出した。
気を落ち着くと話して本当かなと、半信半疑で腕をカッターで薄く切ってみた。
白いかすり傷がつき、後から血がぷくりと膨れ上がり、ぽとりと皮膚から溢れる。
腕の痛みで神経に集中させて、先程の怒りなど忘れてしまう。
わあ士郎の話は本当だったんだ。
少し士郎の気持ちに近づけたことに喜びを感じて、俺は士郎の部屋に胸を踊らせ駆け足でかくて行く。
何度もノックすると諦めたのか士郎は部屋を開けてくれた。
士郎は目の周りに隈ができて髪がボサボサだったけど気にしないで俺は明るく話しかける。


「ね、見て兄ちゃん!
俺ね腕切ったんだ!兄ちゃんの言ってた通り落ち着くよ!
俺兄ちゃんの言ってることが分かってきた!」


死にそうな目で俺の切った腕を見つめ
少し黙ってから士郎の唇がプルプル震えだす。


「アツヤダメだよ切っちゃダメだよ!!」


「はあ?兄ちゃんだって切ってるじゃんか!!」


「もう、僕も切らないからアツヤも切らないで!!」


士郎なら喜んでくれると思った。
同士ができたと分かり合えると思ってたのにまさか拒絶されるとは思わなかった。
裏切られたみたいで悔しくなって握りこぶしして爪が突き刺さる。
さっきまで無気力だった顔が焦って真っ青にさせてる士郎が理解出来ないでいた。





end








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