小説
<南雲と涼野>ごめんね
狭い空間で沢山の人が集まっている場所は苦手だ。
特に学校の教室は地獄だ。
がやがやして息が詰まる。
人が嫌いではない。
人が苦手でもない。
私は人に関しては好き嫌いが激しく嫌いな奴はとことん嫌いで目も合わせたくないが、好きな奴はお節介をやいてしまうほど好意を寄せる。
しかし、人が集まる所は受け付けない。
「ちゃんと教室に来いよ。」
私が生徒指導室で一人自習をしていたら南雲が入ってきた。授業中にも関わらずにだ。
「君も教室に戻りなよ。授業中だろ。」
「お前もだろうが。」
南雲は知っている。
私が教室が苦手なことも、担任が配慮して生徒指導教室で特別自習をしていいことも南雲は知っている。
南雲にそのことを話してないが私の事情を何故か知っている不思議な奴だ。
南雲と私の関係はただの友人関係。
友人として好きだが好意を寄せるほどでもない。
たまに南雲が私がいる生徒指導室を休み時間に来て、今は文化祭の準備をしてる、理科の先生が暫く休みなどクラスの状況を話してくれる。
それだけの会話。
クラスだけの会話で私の核心に触れないでいてくれて気が楽でいれた。
しかし今日の南雲はいつもと違うのだ。
いつも休み時間に来るのに今日に限って授業中に来る。
そして教室に来いと私の核心に触れた。
最低だ。何も分かってなどいない。
君は教室にいることに不安を感じないから意図も簡単にこの口からこぼす。
「帰れ、貴様といると気が変になる。」
「お前は逃げてるだけだ。」
私はぷちんと切れた。
逃げてるだと?
人を傷つける言い方は彼は得意だ。
無意識に握りしめたシャープペンシルを南雲に投げ飛ばす。
一瞬我にかえり、南雲に物を投げた自分に愚か者と思ったが、投げられるように言った南雲が悪いと言い聞かせた。
シャープペンシルは南雲のほっぺに当たって床に落ちる。
南雲は怒って私を殴ると思ったが、逆に哀れと悟った顔で私を見続ける。
南雲は私を可哀想だと思っているのだ。
君が思っているほど不幸でもないのに可哀想扱いにする南雲の態度にムカっ腹が立つ。
「シャーペン投げてむきになるほど心に余裕がないのか?」
落ちたシャープペンシルを南雲が拾い私の筆箱にしまう。
ついカッとなった自分自身がより小さくて情けなくなった。
私より熱の籠った片手を南雲は私の頬にあて、どうするんだろうと南雲の行動を見ることにした。
「友達がまともに教室に来てなかったら悲しいだろ?
少しずつでもいいから教室に来い。
涼野が教室に来ると信じてるからもう俺はここに来ないな。」
授業の終わりのチャイムが響いたと同時に南雲が生徒指導室から出て行く。
この教室から出ていく彼の背中はもう見ることはない。
しかし私は皆がいる教室に帰ることはなかった。
ごめんね。
狭い空間に人が集まり不安になって頭や耳鳴りが痛くなるのも南雲の信頼でどうにかなるもんじゃないんだよ。
end
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!