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小説
晴矢だけ登場しない話




あいつは損な性格をしている。
いわゆるお人好し。

ヒロトは他人にパシり扱いされても善意に受けとる。
いいように動かされいいように笑われて。
あんな連中の言うこと聞くな、利用されてるだけだと教えるとヒロトが首を振る。


「ありがとうって言ってくれるからいい。」


ありがとうって言われない時期に比べると
ありがとうの重みが分かって嬉しい、とヒロトが言った。


救いようがない君。


私も以前君みたいに利用されていた。
泥の入ったサッカーボールはいつも私に行かされる。
しかし私は泥にはまったボールを取りに行くのは嫌ではなかった。
最後に必ずありがとうって言ってくれるからだ。
ある日私に学校の課題のまとめ新聞を代わりに作ってくれと言われたので独りで作ることにした。すると治が来て私に新聞を任せた奴らを怒鳴った。
はじめはどうして治があいつらに怒っているのか分からなかった。
そいつらは私にありがとうって言ってくれたし、助かる、感謝された。


「涼野はいいように利用されているだけだ。
ありがとうをエサに釣られているだけ。」


治の一言に目が覚めた。
そうか私は利用されていたのか。
感謝されても裏ではいいように利用されている都合の良い機械なんだ。

そこから頼み事されても
自分で出来ることは聞かないようにした。
尻拭いは自分でやらねばいけないなことも学んだ。


私の過去とヒロトと似てイラつく。


昔の失敗をヒロトもしている。


下校の帰り道。
今日も彼は利用された。
私らの学校では仕事を体験する職場体験がある。
訪問する前に訪問先に電話をしなければならないのが条件だ。
私らはヒロトと晴矢とリュウジと治のメンバーで消防署に決め訪問することにした。
事前に電話してくれるのは治だ。


「どうして君が書店先に電話をしたんだ。君の訪問先は消防署だろ?」


「だってあの人ら電話出来ないって言うから。」


私はため息をついた。
そんな筈がない。
友達大勢いる連中なのに訪問先に電話が出来ない内気な奴らではない。
電話しようと思えば出来る奴らだ。


「いい加減他人の尻拭いするのやめたらどうだい?」


「尻拭いじゃないよ。」


後ろからリュウジがおーいと叫ぶ声が聞こえヒロトと同じに後ろを振り向いた。
リュウジが私らの所に走って行く。


「あれヒロトと風介二人で帰るのって珍しい。」


「そうでもないよね風介。」


ヒロトが笑ってる。
さっきのしていた話しなど忘れた呑気な顔。


「聞いてくれリュウジ。
ヒロトがまたパシってる。
職場体験ではない書店に電話したんだよ。」


「ヒロトらしいな。」


リュウジがニコっと笑う。
可笑しい笑うところか?


「ヒロトって昔からお人好しじゃん。
まあいいんじゃないの。
情けは人のためならずだと思うけど、身から出た錆で相手にもヒロトにも思い知ることが来るんじゃない?」


「それじゃ遅い。」


「風介は心配症なだけだよね。あははは」


「笑うなヒロト!お前のために言ってるのだぞ!」


赤く溶ける夕暮坂。
私たちはあと二ヶ月で卒業をむかえる。
お互い行く大学が違うため会える機会が減る。
この私たちが通る坂道はあと数回だけ。
私の知らない所でヒロトが騙されないよう祈るばかりだ。


騙されたら風介が助けてよって笑うヒロトに
私は悪い気もしないでいる。




end







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