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She is queen.〜その女、最強につき〜
見上げてみよう夜空の星を



《見上げてみよう夜空の星を》



お盆を過ぎ、まだまだ残暑厳しいこの頃。家の中はエアコンが効いているが、エコの為だと設定した28℃ではあまり意味がなく、勉強に集中出来なくなっていた鳳は不意に外に出にてみることにした。
外に出たところで大して変わらないかもしれないと思っていたが、意外と風が気持ちよく、出て正解、と軽く走り出した。
しかし、高台の公園まで来たところで鳳はハタと気づいた。走ったせいで少々汗が流れていて、これでは何故出てきたんだと思ってつい苦笑する。
公園の水道で顔を洗うと、まだ心地よく吹いていた風が肌を冷たくしてくれて気持ちいい。
まぁちょっとしたトレーニングだったと思えばいいかと思い、また家への道を戻ろうとした。

「あれ…まさか」

街を見下ろすベンチに腰掛ける一人の人を見つけた鳳は、自然とそちらへと足を向けた。自分に間違いがなければ彼女は我が校の女帝ではないだろうか。
じっと空を見つめ、動かない。

「あの…」

恐る恐る声を掛けると、蘭は視線を空から鳳へと移し「お前か」と呟いた。

「やっぱり蘭先輩…こんな時間にどうしたんですか?」

すでに夕餉の時間は過ぎ辺りはもう真っ暗である。
こんな人気の少ない場所にいくら女帝といえど女性一人では危な過ぎる。

「一人なんですか?」
「…ああ」
「こんな人気のない場所は危ないですよ」
「人家も近いからそうでもない」
「うーん…そうでしょうか…」

再び視線を空へと移した蘭を追って、鳳も空を見上げてみる。
目に写るのは都会では珍しい沢山の星たち。
しばらくじっと見ていた鳳の視界の端を一瞬キラリと光が流れた。

「えっ!?」
「見えたか」

鳳の反応に満足そうな声を上げた蘭にハッとして彼女を見る。
ニッコリと微笑み自分を見ていた彼女にドキリとした。

「流れ星ですか!?」
「ああ。今日は流星群のピークらしい」
「それでこんな時間に…」
「良かったら少し付き合わないか?」

いつもの刺々しさがほとんどない蘭に驚くも、鳳は素直に横に腰掛け空を見上げた。

「あっ、また!うわっ、あっちも!」

小さな子供の様に星が流れる度に喜ぶ鳳。

「すごいですね!…っ」

少し興奮気味に蘭に話し掛けた鳳は思わず息を飲んだ。
胸の前で手を組み目を閉じる蘭が、まるで女神のような聖母のような、穏やかな表情で祈りを捧げていた。

「…蘭…せん、ぱい」

声を掛けることが憚れるようなその雰囲気に飲まれそうで、でも視線は蘭から外すことが出来ない。
けれども何故だか引き寄せられてしまいそうになる。

「…先輩」
「…どうした?」
「あ、いえ……何を祈ってたんですか?」

呼び掛けに応えて目を開いた蘭が鳳と視線を合わせる。
蘭は人と話す時は必ず相手の目を見る。真っ直ぐなその視線に時々飲み込まれそうだと思うことがあったが、今日の彼女の視線はいつもより柔らかく、飲み込まれると言うよりは包まれているような感覚だった。

「皆が幸せであるように」

蘭の答えは普通と言えば普通かもしれないが、「皆」というのがどの範囲であるかは計り知れない。
おそらくかなりの広範囲に及びそうな気がした。

「先輩の言う皆ってどこまでなんですか」
「…最低、学園の生徒と先生は入るくらいだが?」
「それ、広すぎません?」
「私を誰だと思っている」

そう言われてハッとする。彼女は生徒会長なのだと。しかしそれでも広いとは思うが。

「ついでにテニス部の全国制覇も祈ってやっておいたぞ」
「うちはついでですか」
「楓がいるからな。お前らの為じゃない」
「はぁ、そうですか」

女帝には何を言っても無駄だというのは分かっているので、鳳は反論はせずに「ありがとうございます」と言っておいた。

「さて、そろそろ帰るか」
「あ、送りますよ」
「いや、構わん」
「でも先輩だって女性ですから。もし何かあったら俺、悲しいです」
「……」
「……あれ?」

今何かおかしな事を口走ったような。
蘭がじっと自分を見つめる。やっぱり飲み込まれそうになる、と思わず目を逸らそうとした。

「そうか。ならばお言葉に甘えよう」

そう言ってふわりと笑った蘭に見惚れてしまった。
本当に綺麗な人だと、改めて思った。

蘭を家へと送り届け、帰路につく鳳は何を思ったか突然走り出した。
実は先程口走った言葉を思い出したのだが。

「俺何て事言っちゃったんだろ…!!」

恥ずかしさで顔は赤いはず。
家で誰かに指摘されたら「走ってたから」と言い訳しよう。

夜空を流れる星たちに、あの人にもう少し近づいてみたいとこっそり願いごとをした、ある日の夜の出来事。





(08.09.09)

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あきゅろす。
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