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She is queen.〜その女、最強につき〜
風邪は万病の元



《風邪は万病の元》



「はっくしゅ!」
「なんや、岳人風邪か?」

朝練中のこと。向日が突然大きなクシャミをした。ダブルスパートナーである忍足が少し心配しながら聞く。

「ん〜別に何ともないけどな〜。あ、もしかして、誰か俺の噂してるとか?」

にんまりと笑って言う向日に、呆れ顔で忍足が返す。

「…絶対あれへんと思うで」
「なんだとー!…へっくしゅ!」
「ホンマに風邪とちゃうんか?」
「大丈夫だって!オラ、よそ見してると、あぶねーぞ!」
「…全く…いつも跳びすぎやねん」

その時は、特に大したことはないと思っていた向日だったのだが。

「……(う〜何かダルイ…)」

朝練の後から少しづつ身体の調子が悪くなり、現在4時間目なのだが授業の内容は全く頭に入らない。向日は頭に手を当て、俯いていた。
隣の席の蘭はそんな岳人を横目に見ていた。朝から調子が悪そうに見えたが、このままだと本当に倒れそうだと思い、蘭は向日に声を掛けた。

「向日…おい…」
「……」

反応がない。
蘭は小さく溜息を吐いてスッと手を挙げた。

「先生」
「何だ、紀宝?」
「向日が具合悪そうなので保健室に連れて行きます」
「向日?…ああ、本当だな。頼む」

蘭は思考能力ゼロの状態の向日に肩を貸し、教室を出た。
向日を羨ましがる男子がいたのだが、それは置いておいて。
保健室に着いた蘭はノックしたが返事がない。

「失礼します…先生はいないのか」

どうやら外出しているらしく、養護教諭はあいにく不在のようだ。
蘭は向日をベッドに寝かし、手際よく濡れタオルを頭に乗せ、体温計を用意した。

「向日、熱を測っておけ」
「……ん〜…」

無意識に動かされた手に体温計を持たせる。
測った熱は37度を軽く超えていた。

「熱があるな…とりあえず寝ていろ。私は教室に戻るからな」

蘭はそう言い、ベッドを離れようとした、が。

――グイ。

「……おい」

向日の手が蘭の制服を掴んで離さない。

「向日、離せ……まったく、無意識なのか?」

無理にでも手を解こうと思えば出来るのだが、無意識とはいえ、病人というのは多少心細くなったりするのだろう。
蘭は意外に面倒見がいいので、横にある椅子を引き寄せ、そのまま座った。

「この借りはどう返させようか…」

そんな事を思案しつつ、蘭は眠る向日を見つめた。



「ん〜よく寝たぁ〜…んあ?あれ、ここどこ?」
「保健室だ」

すぐそばから落ちた聞き慣れた声に驚いて向日が横を見ると、蘭が上から自分を見下ろしていた。

「な、ななな、何で蘭が!?」
「お前、覚えていないのか?」
「授業受けてたとこまでしか覚えてない」
「具合が悪そうだったから連れてきてやったのだ」
「そか…悪ぃ。でもなんでいんの?」

向日の言葉に蘭は溜め息を零し下を指差した。
そこには、蘭の制服を握る自分の手が。

「ええっ!?うわ、ごめん!」
「いや、別に構わないが…向日」
「え?」

慌てて手を離して、向日は布団に潜り込もうとしたが、蘭がそれを遮った。

「ふむ、熱はまだあるが…少しは落ち着いているようだな」
「……っ!」

状況としては、蘭が向日の額に手を当て、熱を診ている状態。
向日は突然のことで、言葉にならず、なすがまま。

「まだ辛いだろう?もう少し寝ていろ。すぐに昼だから、何か持ってきてやる」
「あ…うん」

言い置いて蘭は保健室を出て行った。
一人になって、少し余裕が出てきた向日は、まだ少し熱のある頭で考えた。

「俺、ずっと蘭の制服掴んでたの…?」

夢うつつの中、時折ひんやりとした感触があったが、それは頭の上のタオルか。

「…うわー…」

自分がずっと制服を掴んでいたにもかかわらず、タオルも換えてくれたりして。

「ヤバ…」

風邪は熱と一緒に違うものまで引き出してくれたようで。

風邪は万病の元。そんな諺をふと思い出した、ある日の出来事。




(がっくん恋の病にかかる、の巻。)
(08・03・27)


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