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She is queen.〜その女、最強につき〜
彼女の手作り弁当



《彼女の手作り弁当》



「わり、長太郎、俺今日学食なんだよ」
「宍戸さん、お弁当忘れちゃったんですか?」

金持ち学園と言われる氷帝にだって、庶民はいます。
その庶民の方に入る、宍戸亮は、本日弁当を忘れてしまった。
朝練中、ダブルスを組む鳳にそれを話し、苦笑した。

「そうですか、じゃあ俺は教室で食べようかな(楓ちゃん誘っちゃおっと)」
「悪ィな」

今日はダブルスのことで話もしたいしと、昼は鳳と食べるつもりだった宍戸だが、予定は変更となってしまった。
あんまり無駄金使いたくねぇなぁ…と思っていると。

「宍戸先輩、お弁当忘れちゃったんですか?」

思案中のところに突然、後ろから声が掛かった。
振り返ると、我が部の愛しいマネージャー、楓がにこにこと微笑んでいた。

「うわ!急に声掛けんなよ」
「あ、すいませんっ」

わたわたと謝る姿は実に可愛らしい。
宍戸はそんな楓の頭にポンと手を乗せた。

「いや、まぁ気にしてねーけどよ」
「あの、宍戸先輩、お昼忘れちゃったんですか?」
「まあな。出掛けに玄関に置きっぱなしにしちまったみてぇでよ」
「じゃあちょうど良かったです!うち、今朝お弁当余分に作っちゃったんですよ。誰か食べてくれる人探してたんです。良かったら食べてくれませんか?」
「え、マジ?いいのかよ!?」
「もちろんです」
「お〜ラッキー!んじゃ、どうせだから昼一緒に食わねぇ?」

タナボタとはこういうことだろうか。宍戸は弁当を忘れたことに思わず感謝した。

「はい、喜んで。じゃあ、その時にお弁当、持って行きますね」

楓の作った弁当を食べることができる、という宍戸に妬みの視線が突き刺さる。
しかし。

「ほんなら皆で食べようや。ええやろ?楓ちゃん」

忍足がさらっと言った。楓には特に断る理由がない。

「もちろんですよ」

とにっこり笑った。
宍戸がこっそり忍足を睨んだが、忍足は「そう簡単に楓と2人きりにさせてたまるか」とニヤリと笑った。

そして、あっという間に昼休み。

楓と彼女の手作り弁当。期待しながら開いた屋上の扉の向こうに宍戸が見たのは、いつものレギュラー陣と…蘭だった。

「…テメェらはわかるとして、何で蘭までいるんだよ」

さも嫌そうに言ったが、蘭には全く効かない。

「楓に誘われたのだが、文句があるのか?」

どうして蘭も誘ったんだ、と全員が思ったが。

「久しぶりにお姉ちゃんと食べたかったんだもん」

笑ってそう言う楓には弱く、そのまま弁当を広げることになった。
まさか、今更蘭に『帰れ』などと言えるわけがないのだから。

「あ、これ、宍戸先輩のです、どうぞ!」
「ああ、すまねぇな」

宍戸は弁当の蓋を開けた。定番のおかずが並んではいるが、見た目にも美味しそうに見える。

「うわ、すっげー旨そうじゃん」
「宍戸いいな〜」

向日と芥川が羨ましげに覗いた。今にも取られそうな勢いだ。

「やらねーよ!」
「ちぇっ、ケーチ!」

まずは…と、宍戸は玉子焼きを口に放り込んだ。
周りの視線が気になるが、そこは敢えて無視。

「……」
「宍戸先輩?」
「う…」
「う?」
「うっめぇ〜〜〜!!マジうめぇ!こんな旨いの食ったことねぇよ!」

心底美味しそうに食べる宍戸を見て、楓はパッと笑顔になった。

「ホントですか!?」
「ああ、マジ、旨すぎだぜ!サンキューな!!」
「いいんですよ。やっぱり、さすが、お姉ちゃん!」

楓が横にいる蘭を向いて笑った。

「…当然だ」

蘭がしれっと言い放つ。

旨い、を連発しつつ食べていた宍戸も、それを恨めしそうに見ていた他の連中も、進めていた箸を止めて2人を見た。

「おい…これ、お前が作ったんじゃねぇの?」

宍戸が恐る恐る楓に聞いた。

「いいえ、お姉ちゃんが作ったんですよ。お姉ちゃんのご飯、本当に美味しいんですよ。宍戸先輩も気に入ってくれてよかったです!」

楓の言葉に思わず蘭を見る宍戸。蘭は宍戸をジロリと睨んだ。

「何か言いたそうだな」
「これを、お前が、ねぇ…」
「あのな、私も料理くらいするぞ」
「つーか、旨すぎなんだよ、これ!ありえねぇくらいにな!」
「当然だ。私が作ったのだからな」
「どういう理屈だ、そりゃ」

そんな様子を呆然と眺めていたレギュラー陣も思わずマジマジと蘭を見た。

「何だ?お前ら」

蘭が不機嫌そうに視線を返す。

「いや、ホンマに旨いんかなぁ思て」
「そんなに旨いんなら食ってみたいなーって」
「やらねぇっつーの」

よほど美味しいらしく、宍戸は誰にもあげるつもりはないらしい。

「まぁ…そのうちな」

蘭が微笑んだ。その笑みを見て、全員が「絶対何か企んでる!」と思ったが敢えて口には出さない。

そんな中、跡部だけが平然と言い返した。

「ハッ、こんな女が作ったもんが旨いわけねぇだろ」
「そういうことは食べてから言うもんだな」
「食べるまでもねぇだろ」
「ほう…そこまで言うか。ならば、次の練習試合の日に差し入れでも持って行ってやろうではないか」

その言葉に跡部はニヤリと笑って。

「仕方ねぇな、そこまで言うなら持ってきてもいいぜ」
「仕方ないから持っていってやる。覚悟しておくがいい」

蘭も負けていない。ニヤリと笑って言い返した。
相当の自信がある様子だ。
そして、練習試合の日に蘭が持ってきた差し入れに絶句する跡部の姿と、それを見てしてやったりと笑う蘭がいたのは、宍戸の想像通り。

女帝の料理にファンがついた、ある日の出来事。



(最後のほうは跡部が絡みまくってしまいましたが)
(07・09・18)


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あきゅろす。
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