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She is queen.〜その女、最強につき〜
Good dream or Bad dream?


衣擦れの音
軋むベッド
乱れたアイツ

「…っん…アトベ…ッ」

俺を呼ぶ声が、ひどく色っぽくて、そして、可愛くて。



《Good dream or Bad dream?》



「……!!!」

ガバっと跳ね起きた跡部の目に映っているのは、自分の部屋。
さっきまで見ていたのが夢だと判り、ホッとため息をついた。

「…何だ、夢か」

何で俺がアイツなんかの夢を見なくちゃなんねーんだ!
しかも…あんな。

「何で楓じゃねーんだよ」

お気に入りの楓ならともかく。
まあ、あの天然娘があんな夢に出るとは思えないのだが。
莫大なイライラを抱えつつ、跡部はベッドを降りた。



「何や、えらい荒れとんなぁ」

朝練中、やたら破滅への輪舞曲を連発する跡部に忍足が声を掛けた。

「…夢見が悪かったんだよ」

舌打ちの後、珍しく疲れたように溜息を零す跡部を見て、よほど疲れた夢を見たのだろうと忍足は予想した。
だが、跡部をここまで機嫌悪くする夢とは一体どんな夢だったのか、少し気になる。

「で?どんな夢やったん?」

興味津々に聞いてくる忍足に思いっきり嫌そうな顔を見せて。

「…女とセックスしてる夢」
「……」
「何だよ」
「…なーんや、そんなん別に夢見悪いことないやんか。むしろええ夢やん」

予想ほどの答えではなかったのか、残念そうな忍足は興味を失い、コートに足を向けた。

「…相手が蘭でもそんな事言えんのか?」

という跡部の言葉に一瞬固まって、忍足はその時点で跡部から10メートルは離れていたであろうが、一瞬で戻ってきた。

「…蘭って、あの蘭?」
「…そうだ」
「夢で蘭と…?」
「…そうだ」
「……ハハハハハハハハハ!!!」
「笑うな!!」
「そ、そんなこと言うたかて…っ!蘭やろ!?蘭と…っ!夢とはいえ…ハハハハハ!!」
「笑いすぎだ!!」

跡部はお腹を抱えて笑い転げる忍足を思いっきり足蹴にした。
そんな2人を見て、向日たちも不思議そうに寄ってきた。

「なになに?どしたのー?侑士、何がそんなに可笑しいのさ?」
「跡部がな…夢でな…アハハハハハ!!」

向日が今だ笑い続ける忍足に向かって聞くが、笑いすぎで言葉にならない。

「…こいつ煩ェ…」
「…どうしたんですか?」

宍戸も鳳も訳がわからない。

「何々!?どしたの!?忍足、何があったの!?」

あまりの笑い方にとうとう芥川まで起きてしまった。

「…ハァ、ハァ…あ〜おもろかった〜!」

ようやく忍足が落ち着いたのは、それから5分後のこと。

「…で?何だったわけ?」
「よう聞いてくれた、岳人!それがな、跡部のやつ、蘭とセックスする夢見たんやと!!」
「…はぁ!?何、マジで!?」
「嘘だろ…?おい跡部、お前そんなに女に不自由してたのか?」
「跡部部長、頭でも打ったんですか!?」
「うわー跡部ってばヤラCー!」

仮にも部長なのだが、酷い言われようである。

「好きで見たわけじゃねぇよ!」

ゴスッ!とどこかで音がした。

「いったぁ!!」

蹴られたのはまたも忍足だった。
それとと同時に、

「練習終了でーす!」

楓の朝練の終了のホイッスルが鳴った。

「はい、跡部部長、ドリンクどうぞ!」
「ああ………」
「…部長?」

跡部は楓をジッと見つめていたかと思うと、おもむろに抱きしめた。

「きゃっ!…ぶぶぶ部長!?」
「……やっぱお前が一番だな」
「は?」
「「「こら跡部ーーー!!!」」」

忍足以下、レギュラー陣が2人を引き剥がそうとした、が。
ビュン!!という音を立て、楓を抱きしめる跡部のすぐ横を物凄い速さでボールが通っていった。
跡部は思わず後ろを見た。

「うちの妹に手を出すな」

先ほどの話に出てきたその人が、もうひとつボールを手に仁王立ちしていた。

「…っ、蘭!危ねェだろーが!!」
「ハッ!本当は当てるつもりだったがな。お前に当てると楓にも被害がありそうだから止めてやったのだ。有難く思え」
「俺様を誰だと思ってるんだ、アーン?」
「は?跡部景吾だろ、違うのか?」
「そういうことを言ってるんじゃねーよ!」

帝王跡部も女帝蘭にはこんな調子だ。
…と、その光景を見ていた忍足が、思い出したように蘭の方へ近づいた。

「蘭、蘭!あんな、跡部がな…」
「忍足!!」
「うわ!」

跡部の蹴りが忍足の背中にヒットして、忍足はそのまま倒れた。
蘭はそれをどうでもよさそうに一瞥しただけで、楓の肩に手を置いた。

「……楓、授業が始まるぞ」
「あ、本当だ!皆さんも早く着替えてくださいねー!お疲れ様でした!」

男どものやり取りを無視して、楓を連れて蘭は去っていった。

「…チッ…」

跡部は軽く舌打ちして、後姿の蘭を睨んだ。



「跡部、すまないが、これを生徒会室の紀宝に渡してくれ」

テニス部員は榊監督の用事は断れない。
放課後、しぶしぶ書類を手に、跡部は生徒会室へ向かう。

「何で俺様が…」

今日は折角部活もなく、楓を待ち伏せしてやろうと思っていた跡部は不機嫌だ。
しかも、今日に限って樺地は家の用で先に帰ってしまっていた。
今朝の夢の事もあり、跡部は蘭に会うのが嫌だった。クラスが違っただけ幸いだったのに。

――コンコン。

仮にも生徒会長。一応、礼儀としてノックする…が。

――コンコン。

返事がない。ノブを捻ってみると、鍵は掛かっていなかった。

「…いるなら返事しろっつーの……」

少しイラついた声で中に入ったが。

「チッ…寝てやがる…」

部屋にはソファに横になって、気持ち良さそうに眠っている蘭がいた。すでに仕事は終わっていたようで、他に執行部の者はいなかった。
生徒会長と弓道部部長。この2つの肩書きのある蘭とて、疲れるのだろう。跡部が入って来たことさえ分からない程、熟睡しているようである。
跡部はマジマジと蘭を見つめていた。

「…何でこんな女が俺様の夢に出てくるんだ」

楓と1つしか違わないが、楓よりもずっと大人びた顔。
肌は白くて、何もつけていないのに綺麗なピンクの唇。

「…ま、黙ってれば、いい女だがな」

跡部は資料を置いて、生徒会室を後にしようとした。

「…っくしゅん」

蘭が小さくくしゃみして、跡部は振り向いた。
ソファに寝ていた蘭は寒いのか、ゴソゴソ動いて丸くなろうとしていた。

「…ったく…」

小さく溜息を零すと、跡部は着ていたブレザーを蘭に掛けた。

「…ん」
「っ!」

蘭が起きたのかと思って一瞬驚いたが、起きた様子はないようだった。
こんな所はさっさと出て行くに限る。そう思い跡部は生徒会室を出ようとしたが、足が動かない。

何故だ。

こんな女など、放っておいて、さっさと帰ればいいものを。
蘭が風邪を引こうがどうなろうが俺の知ったことじゃないし。
しかし、何となく帰る気になれないのは、やはり夢の所為か?

「…ぅ…ん…」
「…ッ」

少し艶っぽい蘭の声にドキリとしてしまう。
夢の所為だ。あの夢が悪い。
自分が気に入ってるのは楓であって、蘭ではない…はず、と思う心とは裏腹に。

足が勝手に蘭に近づく。
ソファに手を掛ける。
顔が近づく。

あと、1センチ。

蘭の息が掛かる程近い。

唇が、少しだけ、触れて。


――パタン。


跡部は足早に生徒会室から離れた。

「…何、やってんだ、俺は…っ!」

俺はおかしいんだ、そう言い聞かせる。
俺様はこんな男じゃない。全てはあの夢の所為。

夢の、所為。



「…ん?…寝てしまったのか…?」

ドアの閉まるような音に蘭の意識は引き戻されて、起き上がった。
ハラリ、と体から何かがずり落ちる。

「…何だ、ブレザー?……あ?…跡部…?」

ブレザーの内側には跡部景吾の名前。それは、跡部がここに来た証拠でもある。

「何しに…あぁ…これか」

榊に頼まれたのであろう書類が机の上に置いてあった。
だが、どこか違和感を感じた。

「そういえば…さっき夢で跡部に…」

そう呟いて触れたのは、自分の唇。
妙にリアルな夢だったと思うが、夢の中の自分が笑顔でいたことが明らかに夢だと思わせる。
けれど、少しだけ、何か引っかかるのは気のせいなのか。

「…変な夢」



翌朝。

「おい、跡部」
「アーン?」

蘭はポイ、とブレザーを入れた袋を跡部に投げた。跡部は気にするでもなく、当たり前のようにそれを受け取った。

「昨日は悪かったな」
「…別に。お前が風邪でも引いて、楓に感染されちゃ、たまんねーからな」

素っ気無く言う跡部に、蘭はふわりと微笑んだ。

「お前らしい言い草だ」
「……っ(反則だろ…テメェ…っ)」

あの夢の笑顔と同じ笑顔で微笑まれて、フリーズしたのは、不可抗力というやつ。
そう言い聞かせても、遅いのは重々承知だが。

心のベクトルの方向が、少しズレた気がした、ある日の出来事。



(それにしても、よく頼まれごとをされる部だ(笑)私的にお気に入りの作品です)
(07・06・04)


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