She is queen.〜その女、最強につき〜
その視線の行く先
午前授業、快晴、部活ナシ。
こんな素晴らしいシチュエーションはなかなかないと、滝はいつも皆でお弁当やらを広げる屋上に足を運んだ。
フェンスを背に座り、下校する生徒達を見下ろす。
向日と忍足が帰るのも、跡部がリムジンに乗り込むのも見えた。
そんな生徒達の中に、一際目立つ女の子。
目立つのは滝にとって他の子よりも気になる存在だからなのだが。
「一人なんだ」
周りには友達も誰もいないようで、一人なのだと判断する。
よく一緒に帰る『彼女』もいないみたいだし、そう思った時、キィと屋上の扉が開き、先程浮かんだ『彼女』の姿があった。
まだ帰ってなかったのか、と滝は彼女――蘭を見た。
「蘭」
滝が声を掛けるとちらっと視線を投げて、けれど無視して行く。
一瞬だがこっちを見た筈なのに、と軽くへこむ。
「蘭、無視しなくてもいいんじゃないの?」
「何故だ」
「……」
何故と言われても。
滝には何も言えない言い返せない。
蘭に対抗出来るのは跡部かある意味楓くらいだと彼は思う。
相変わらずのマイウェイな女帝サマは、フェンス越しに何かを見つめている。
滝が横に立ってそれを追っていくと、帰宅する生徒達がいた。
視線を戻して蘭を見れば、大切なものを見つめる瞳をしていて彼は思わずドキリとさせられた。
楓はさっき帰っていたし、こんな瞳で見つめるものなんてあるだろうか?と思案するが。
あるのだろうと思った。
蘭にとってはこの学園の全て――職員や事務員、学食のスタッフまでもがその範囲に入るのだ、きっと。
本当に規模が大きい。懐の大きさは跡部以上だと滝は思う。
でなければこの学園で生徒会長にはなっていないだろう。
「ねぇ蘭、生徒会の仕事は?」
「これからだが」
「ていうか何見てたの?」
「世界…とでも言おうか」
「は、世界?」
やはり規模が大きい。
「守りたいもの。生徒達とかな」
ここから見えるもの全部を守るなど実際無理だと思うが、蘭なら何とかしてしまいそうに思えるのだから不思議なものだ。
「では、私は行く」
「あ、うん、頑張って」
「……」
「…っ!」
思わず掛けた滝の言葉に、蘭はふっと微笑んだ。
「(――しまった)」
貴重すぎる蘭の笑顔に滝は、頬が少し熱く感じた。
彼女の見ているものを見てみたくなった、ある日の出来事。
(100619)
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