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She is queen.〜その女、最強につき〜
女帝の意外な顔


何や…ただの我が道行く女帝とちゃうやんか。



《女帝の意外な顔》



テニス部では、今日も今日とて朝練が終わると、そのまま愛しのマネージャー争奪戦へともつれ込んでいた。

「なあなあ、楓ちゃん、今日一緒に帰らねぇ?」
「あほか、楓ちゃんは俺と帰るんや」
「何言ってるんですか!俺とですよ」
「長太郎、お前後輩ならちったぁ引けよ」
「いくら宍戸さんでもこれだけは引けません」
「お前ら全員馬鹿だな。楓と帰るのは俺様だ」

たとえ俺様跡部でも、このアクの強い連中が折れるはずもなく。
結局、いつものパターンとなる。
じゃんけん…である。
見た目がそうでなくとも、一応、彼らも中学生なのである。

「よっしゃあ!俺の勝ちや!!」

どうやら勝者は忍足のようだ。

「楓ちゃん、今日一緒に帰らへんか?」
「はい、いいですよ」

忍足の誘いを考えることなく微笑んで受ける楓。
基本的によっぽどの事がない限り、楓はレギュラー達からの誘いを断ることはない。
本日の独占権は忍足が獲得した。

「放課後が楽しみやなあ」

ニヤ〜ッと笑いを浮かべる忍足に、負けた男達の憎悪の視線が突き刺さっていた。

その日の午後のこと。
今日は職員会議の都合上午前授業だが、部活はいつも通り行われる。忍足は、部の始まる時間まで屋上で過ごすことにした。

「今日はジローはおらへんのか」

いつも寝ている芥川の居る場所といえば、屋上か中庭。
なるほど、今日は何時もより少し風が強いためか、屋上に人はいなかった。しかし、たとえ芥川がいたところでどうせ寝ているのだから相手になるはずもないのだが。
忍足は図書館から借りてきていたラブロマンス系の本を取り出し、読み始めた。あと数ページでヒロインと主人公がハッピーエンドになるであろう、いい場面に差し掛かった時だった。

キィ、と屋上の扉が開く音がした。

「何や…誰か来たんかいな?」

せっかく本の世界に入り込んでいて、感動しとったのに水を差しよって。誰や、顔拝んだろ、とこっそり覗いた忍足の目に入ってきたのは。

「蘭やないか…」

声を掛けようと思ったが、そのまま声を飲み込んだ。
蘭一人ではなかったからだ。

(これは…もしかせんでも、告白タイムっちゅーやつか)

楓同様、人気のある蘭。実は楓以上に告白される頻度は高かったりする。
今度は誰やろなぁと興味半分見てみる。

(アイツ…俺の隣のクラスの奴やな…はぁ〜物好きやなぁ)

「紀宝…俺、お前のこと好きなんだ」
「そう、ありがとう。それで?」
「それで?…って」
「で、どうしたいのだ?」
「いや、良かったら付き合ってもらえるといいんだけど」
「無理だな」
「…即答かよ…」
「理由は2つ。1つ、私は今生徒会と弓道部で忙しいから。2つ、私はお前をよく知らない」
「そんなの、付き合ってみないとわからねーだろ?」

珍しく負けじと食い下がる男に蘭は言い放った。

「言っておくが、私の好みは私よりも強い男なのだが、お前は私より強いか?」

その言葉に、ガクリと肩を落として男は去って行った。

(蘭より強い男なんてこの学校におるんか?)

忍足は彼に少し同情した。



「オイ、そこの似非関西人、何をしている」
「…どーも(めっちゃバレてるやん。俺は時々蘭が恐ろしい…ちゅーか、似非って何や!)」

忍足は苦笑しながら蘭の前に姿を現した。

「そやけどなぁ、俺の方が先におったんやで。勝手に告白大会始めたんはそっちや」
「ふむ…確かにそうだな。邪魔して悪かった」

蘭は表情を崩すこともなく、屋上を去ろうとしたが。

「…うわ!」
「……っ!」

ものすごい突風が屋上を吹きぬけた。校庭から上がってきた砂とともに。

「……痛…」

蘭が目を押さえて突っ立っている。砂が入ったようだ。
ゴシゴシ目を擦っているその仕草が意外と可愛いな、と忍足は思ってしまった。

「(……な、可愛い!?)」

忍足は今自分が感じたことに驚いていたが、まだ目を擦る蘭にハッとした。

「おい蘭、擦ったらあかんて!」
「…だが痛いのだからしょうがない」
「ちょお待て!俺が見たるから」
「…うむ。すまんな」

蘭が忍足の方を向いて、顔を上げた。

「どれどれ……(…やっぱこいつ綺麗な顔しとるよな。楓ちゃんとは違ってまた…って、俺は何を考えとんのや!?こいつはあの跡部と張るくらい女王様なんやで!!)」

自分に言い聞かせるも、こんなに間近で蘭の顔を見たのは初めてだ。ちょっと観察してみようかと思ったのがそもそもの間違い。
砂が目に入ったせいで潤んだ瞳と、白い肌に映える形のいいピンクの唇。

「(……)」
「…オイ、さっさとしてくれないか…痛いんだが」
「え、あ、ああ、悪い………ほれ、もうええんとちゃうか」
「……ふむ…すまないな。今度何か礼でも」
「構わんって。…あ、ほんなら楓ちゃんの写真で手ぇ打ったるわ」
「…お前らは本当に楓バカだな」

全く、と蘭はクスリと笑った(ように忍足には見えた)。

「…お前、今、笑ったか?」
「失礼だな。私も笑うことくらいある」
「うわー初めて見たわ…」
「お前らはバカばかりだからな。笑う気も失せるのだ。さて、時間だな。私は行かねばならん。じゃあな」

颯爽と屋上を後にする蘭の後姿を見送った後、忍足はしもたー、と手で顔を覆った。

「……ただの女王ちゃうやんけ」

誰や。『我が道を行く』なんて言うた奴は。
めちゃめちゃ感情あるし。

「前よりは好感持てるようにはなったわ」

たまには楓だけじゃなくて、蘭のことも見てみようか。
そんな考えもよぎった、ある日の屋上での出来事。





(結局妹の方との帰りはどうなったんだろうか?多分、楽しく帰ったと思います。忍足は動かすのが難しい…)

(07・02・06)


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