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She is queen.〜その女、最強につき〜
:11



「では、はじめまーす。Cチームサーブ!」

ピッ、と葵がホイッスルを吹いた瞬間、高く上げたボールに向かい、蘭が走り、飛んだ。
バシィ!!!ともの凄い音をあげて打たれたボールは、ネットを越えBチームの首藤の顔面に思いきり当たった。

「ぐぼぁあっ!!!」

おかしな声を上げ吹っ飛んだ首藤は、頭から砂浜に刺さった。その姿に、六角メンバーは昨日の葵を思い出した。
跡部達だけでなく、菊丸達も言葉を失い顔面蒼白だ。

「0―1!(うわぁん!怖いよー!)」
「これで人数的にバランスが取れるな。こちらには女子がいるのにおかしいと思ったのだ。ハンデくらい貰わねば」

うむ、と頷く蘭に、誰もが「(ハンデいらねぇだろ!!つか主力じゃねーか!!)」と突っ込んだが、口には出せなかった。

「Bチームサーブ!」
「蘭…手加減はしないぞ」
「望むところだ」

手塚の綺麗なフォームから打たれたボールがラインギリギリに落ちる。しかし、先程の向日のように、菊丸がアクロバティックでカバーした。
大石がトスして佐伯がアタック!

「っしゃー、バーニン!!」
「む…」

いつの間にか片手にラケットを持った河村が、空いた片手でレシーブ。
それを乾が跡部へトスし、跡部もラインギリギリに打ち込んだ。

「……ほう」

首藤は戦線離脱、越前は役立たず。実質4人での対決だが、流石と言うべきか。
そして互いに一歩も譲らず、5―6でBチームがマッチポイントを迎えていた。

「覚悟しろ蘭!」

不敵に笑んだ跡部が高々と告げると、蘭は突然「タイム」と言った。

「は?」
「これだけ動くと暑いな」

そう呟くと、蘭は着ていたパーカーを脱いで楓に投げた。

「楓、持っていてくれ」
「はーい」
「「……」」

パーカーの下はもちろん水着。白い肌、すらりとした手足、中3女子にしては大きめの……胸。更に蘭は美人なのである。
目が奪われない筈はなく、全員が例外なく見惚れてしまっていた。例外なく、である。

「続きを始めるぞ」

いつもの無表情で再開を告げると、我に返った葵がホイッスルを吹いた。
その音で他の者も元に戻ったものの、動揺は抑えられず――。

ピピーー!

「8―6でCチームの優勝でーす!」
「チッ…くそっ!蘭のヤツ…!」
「……(俺としたことが…)」

悔しがる跡部、額に手を宛てショックを隠せない手塚、ノートを落とした乾、逃げかける越前、ラケットを落として弱気な河村、今だ埋まっている首藤。
そんな彼らの前に、お盆を手に仁王立ちする蘭がニヤリと笑った。

「さあ、飲むがいい」
「「(鬼…!!!)」」

数秒後、越前、河村、首藤、乾の叫び声が上がった。

「「……!」」

跡部と手塚は流石部長、何とか叫びたいのを堪え、苦痛が過ぎるまで耐えた。
膝をついてしまったのは仕方ないだろう。

「ハァ…不味い…!仕方ねぇ、お前らの優勝だ。券は後で送ってやる」
「ああ跡部、私の分は樺地にやってくれ」
「ハァ?」
「…?」

かなりビュッフェ券を欲しそうにしていた蘭が、あっさりそれを手放した。樺地の頭にもクエスチョンマークがあるようにポカンとしている。
何言ってんだ、と言おうとした跡部を遮るように蘭は続ける。

「もうすぐ樺地のお姉さんが出産で里帰りされるらしくてな、樺地、出産前にゆっくり美味しいものでも食べさせてあげるがいい」
「…ウス…」
「構わん。私はそんなものいつでも行けるからな。遠慮するな」
「ありがとう…ございます」
「それでいい」

ぺこりと頭を下げる樺地に笑いかけ、そういうことだ、と跡部に向いた。

「……ハァ(そうだな、こいつはそういうヤツだ)…その必要はねぇ。1人2枚づつやるよ」

呆れたように言えば、蘭は「そうか、ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。

珍しい蘭の微笑みは、先程の水着お披露目と同じく一同を見惚れさせてしまった。
ただ、それもいつも通り一瞬のことだが。普段の表情に戻った蘭は、楓からパーカーを貰い羽織りながら尋ねる。
それを彼らは少し残念に思った、というのは置いておこう。

「さて、そろそろ夕飯の仕込みに戻るか。跡部、夕飯にこいつらを誘ったらどうだ?」
「…そうだな…おいテメェら、どうだ?」
「お前達が構わないなら」
「おおー楽しそうじゃーん!」
「いいじゃねーか!」

青学も六角も、もちろん異論などあるはずもない。

「よし、決まりだな。おい蘭」
「うむ、分かった。楓、手伝え」
「うん。じゃあ皆さん後ほど」

ではな、と軽く手を挙げ蘭達は別荘へと戻っていった。

「いやー、ホント凄いね、彼女」

苦笑しながら誰にともなく呟いた佐伯の言葉を跡部が拾った。

「ま、伊達に女帝とは呼ばれてねぇぜ」
「へぇ、買ってるんだね、彼女のこと」

さらに会話に入ってきた不二の言葉に、跡部はフッと微笑んだ。

「まぁな」

跡部の意外な表情を見て、不二は一瞬瞠目した。
ライバルはかなり多そうだ、と思ったのは彼一人の心の中で。





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あきゅろす。
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