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She is queen.〜その女、最強につき〜
:6



蘭が朝食の支度をしている最中、ダイニングのドアが開き跡部が入ってきた。
ジャージ姿で汗を流している。どうやらランニングに出ていたらしい。
無言でキッチンに入った跡部は、当然蘭と顔を合わせた。

「飲め」
「…サンキュ」

まるで分かっていたように、同時に差し出されたドリンクボトルを苦笑を浮かべて受け取ると、跡部は一口流し込み蘭を見た。
見られていることを知りつつも、淡々と作業を進めていく蘭の手元はオムレツを作っているところだ。
蘭が手首を返すとフライパンの中でくるんと回るオムレツ。ふんわりと作られたそれは、割ればきっと中は半熟でとろけているのだろう。

「上手いもんだな」
「そうか?普通だと思うが」
「ふーん」

蘭はそう言うが、ここまで綺麗にふんわりと作るのは難しい。実際、楓は蘭程綺麗には作れない。
関心しながら少しの間それを見ていた跡部はボトルを置くとキッチンを出て行った。汗を流しに行ったのだろう。
蘭は跡部の後ろ姿をチラリと見遣って、再びフライパンに集中した。

今日はコートでの練習で、珍しく跡部が激を飛ばす声が聞こえていた。
その横で洗濯したジャージやタオルを干し終えると、蘭はまたもやふらりと歩きに出掛けて行った。

「まさか、また何か採ってくるんじゃ…」

苦笑した楓が呟いた。



砂浜の堤防沿いを歩いていた蘭に、突然声が飛んで来た。

「そこの女の子!危ないっ!」
「……」

声の方からこちらに向かってバレーボールが飛んできていたのだ。
だが、蘭はそのボールの正面に立つと、バシィ!と思いきり打ち返した。
ご存知の通り、蘭は弓道部である。弓を引くのは案外力が要るわけで、蘭は女子にしては力があるのだ。
打ち返されたボールはちゃんと元へ…いや、少年の顔面へと戻された。

「ぐあぁッ!!!」
「わー!剣太郎ー!」
「まったく…ちゃんと受け取らんか」

吹っ飛ばされた少年を気にする様子もなく、蘭は彼らを見て、昨日のことを思い出した。

「昨日はすまなかったな」
「あ、やっぱり昨日の!」
「美味しかったぞ。やはり採りたてはいいな」
「だろ?ところで、何してるんだい?」
「少し散歩をな」
「そっか。あ、昨日は名乗らなくてごめん!俺達、この近くにある六角中テニス部なんだ。俺は佐伯」

佐伯が名乗ると、他の者も続いて自己紹介していった。ちなみに、砂浜に倒れている葵は佐伯が紹介した。何気にメンバーも葵を置き去り状態で彼が少々憐れである。

「私は紀宝蘭だ。六角テニス部は確か全国出場校だな」
「よく知ってるなぁ!紀宝さんてテニス好きとか?」
「いや、うちの学園の部活の戦績や資料で知ったまでだ。テニスは嫌いではないがな」
「うちの学園?」

佐伯が疑問を口にしたが答えは返らず、蘭が時計を見て言った。

「ああ、すまないがそろそろ戻らねばならん」
「忙しそうだね」
「昼食の準備があるのでな、失礼する」
「それなら仕方ないね。明日も良かったら来ないかい?」
「……気が向いたらな」

クスリと微笑み、蘭は来た道を戻っていった。
佐伯達は、またも蘭の笑みに釘付けだった。

「やはり六角中テニス部か」

跡部が食材を把握していたように、蘭もこの付近を調べていた。
近くに六角中があることも、そのテニス部のレギュラーメンバーさえも。
故に、紹介などされなくとも、蘭は顔と名前を一致させていた。

「おーい、佐伯ー!」
「やぁみんな、よく来たね」
「……葵が埋まっているのは気のせいか?
「ハハッ、さっきちょっとね。気にしなくていいよ」
「そうか…ならいいが」
「(……ふむ)」

ふと後ろの方で聞いたことのある声がして、チラリと振り向き見た蘭は、その瞬間、何かを企むような微笑みを浮かべたのであった――。





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あきゅろす。
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