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She is queen.〜その女、最強につき〜
君と初めて出会った日・3



《君と初めて出会った日・3》



この日の出来事は瞬く間に校内中に広がり、蘭は有名人となってしまった。
本人にとっては特に問題ではないようで、好奇の視線にも相変わらずの態度だ。
その飄々とした態度に憧れを抱く女子も現れる程であった。
しかし、跡部を殴った女子、という訳で、嫌悪の対象ともなっていた。

ある日、向日が中庭を通っていると、どこからか声がした。
怒鳴りつけているような声だった為、面倒に巻き込まれたくないとは思ったが、偶然その光景は見えてしまった。

丁度、叩かれそうになった蘭がひょいと避けた所だった。

「なっ…何で避けるのよ!」
「私には叩かれる理由がない」
「あなた跡部様を叩いたでしょう!?」

向日はその会話で蘭がいるのだと分かった。

「あれが噂の?」

昨日、跡部が叩かれた話はその日の部活中持ち切りだった。
不機嫌な跡部の八つ当たりに遭ったのはもちろん向日だけではなかったが。
その場にいなかった向日は紀宝蘭という人物に少なからず興味があった。

「あの跡部を叩くなんてなー」

何とは無しに見ていたが……。

「跡部……?誰だ」
「昨日あなたが叩いた人よ!!」
「……ああ、あのくだらん奴か」

実は、蘭は一度名前を聞いた人間を忘れないという特技を持つのだが、この時はしれっとそう言い放った。

「どうでもいい奴の為に割く時間はない」
「ちょっと……きゃっ!」

そろそろ予鈴が鳴る、と踵を返した蘭に掴み掛かろうとした女生徒がバランスを崩し倒れそうになった。

「……え…?」
「まったく…気を付けろ」
「あ、あの」

女生徒は地面に倒れる前に蘭が腕を引き助けられていた。
自然、抱き寄せられる形となっており、女生徒は目の前の蘭を戸惑いながらも凝視する。

「足を捻ったりはしていないか?」
「だ、大丈夫…」
「うむ、ならいい」
「あ…ありがとう…」

背を向け去ろうとする蘭に女生徒は声を掛けるが、何も答えずに中庭から消えた。

後に残ったのは、唖然とする女生徒と、彼女の仲間と向日。
シンとした空気を破って女生徒が呟いた。

「素敵…蘭様…」
「うん…」
「……アタシもカッコイイとか思っちゃった…」

跡部に対する文句を言っていた筈が、虜になってしまったらしい。

一部始終を見ていた向日の第一印象――『跡部が敵わないのも無理ないぜ…』

納得してしまう向日であった。
自分も蘭には敵わないと気付くのはまだ先のこと。



ある日の放課後、本を借りようと図書館に寄った滝は、静かな空気にもかかわらず一際存在感のある女子を見かけた。

その面立ちと纏う雰囲気で、最近噂の同級生、蘭だと想像するのは容易いことであった。
他の生徒や上級生もチラチラと蘭へと視線を遣っている。

「(あれが紀宝…ふーん…)」

目立つ容姿に人を寄せ付けない空気は確かに、あの跡部を殴った女だと言われても納得出来そうだ。
今は一人なのか、棚から本を取って選んでいる。
これほど視線を集めているにもかかわらず全く気に留めることはない。

「(へー、やるねー)」

我が道を行くという点では跡部と似ているようだ。
しかし、噂や忍足、宍戸の話で聞いた感じとは少し違うような気もする、と滝は何気なく蘭を観察していた。
彼らの話では、蘭とは関わりたくないような感じだったからだ。

「(別に、そんなに毛嫌いするような娘じゃないと思…)」

そう思った時、蘭が振り返り周りを見渡した。
ひそひそと話していた声が途端に止み、シンと静まり返る。
蘭の目が語っていたのだ。
『煩い』と。

「……」

若干額にかいた汗は冷たくて。
滝は開いたままの本に視線を移した。

第一印象――『うん、噂通りだね』

いつの間にか、自ら関わりたくなっていくのは当分先の話。





滝君のキャラは全く掴めていないのですが…。これで3年メンバー全員と出会いました。滝君のある日の出来事も早く書かなきゃですね。
(090619)


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