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She is queen.〜その女、最強につき〜
君と初めて出会った日・2



《君と初めて出会った日・2》



あまり表情が変わらないことと口調が古めかしいこと、それから美人という以外は特に目立つことのなかった蘭は、頭がいいということでクラスでも慕われていた。
案外面倒見も良いので、話をすれば付き合い難いわけでもない。

しかし入学式から半月が過ぎた頃、その印象を一変させる出来事が起こった。

教室移動の為廊下を歩いていた蘭の行く先がざわついていた。

「何でいきなり別れるなんて…!」
「煩ぇメス猫だな。しつこい女は嫌いだ」
「何それ…酷い…っ!」

パチンと頬を叩く音が聞こえた。
入学してまだ半月というのに修羅場らしい。

しかし蘭にはどうでもいいことで、彼らを気にすることなく取り巻く輪の中を通っていく。
周りも輪の中心の2人も唖然とするが、修羅場中の男――跡部が、叩かれた仕返しとばかりに手を上げた。

「俺様に手を上げてただで済むと思うな」
「……っ!」

だが振り下ろされた手は音を出さず、間に入った蘭によって止められていた。

「何だテメェ!!」
「どんな理由であれ、男が女に手を挙げるのは感心せんな」
「……」

睨む跡部の視線をものともせず、蘭は止めていた手を振り払った。

「テメェには関係ねぇだろ。黙ってろ」

睨みを鋭くしても動じない蘭に跡部のほうが苛ついてきていた。

「だが、見捨ててはおけん」
「なら、お前が代わりに殴られるか?」

跡部の言葉に蘭は即答した。

「好きにしろ」

返ってきた答えに一瞬戸惑いはしたものの、跡部はスッとその手を上げた。
一瞬の後、パン、という軽い乾いた音が廊下に響いた。

「…ま、これで勘弁してやるよ。テメェ、俺様に2度と近づくな」

跡部は先ほどまで揉めていた女に向かって言い放った後、その場を去ろうとした。
しかし。

「何しやがる」
「…やられっ放しはおかしいだろう」

蘭がまたも跡部の腕を掴んでいた。
そして、ニヤリと笑ったかと思うと。
パン、パーン!と2度、叩かれた乾いた音が響いた。

「お…往復ビンタ…」

事の成り行きを見守っていた忍足が呟いた。

「テメェ、俺様は一度しか叩いてねーだろ!」
「男が女に手を上げたのだ。倍返しでも足りんくらいだ」
「んだと…!」

蘭に掴みかかろうとする跡部を通り掛かっ宍戸と忍足が押さえた。

「おい、止めとけって!」
「テメ…今度会ったら覚えとけよ!」
「フン…くだらない男のことは覚えん主義だ」
「誰がくだらないだと!?俺様は跡部景吾だ!テメェの名前も教えろ!」
「馬鹿か、くだらん奴に教える名などない」
「な…!」

そう言って、騒然とする輪を抜け蘭は颯爽と去って行った。

「何なんだアイツは!!」
「…アイツ、うちのクラスの紀宝蘭」

宍戸が少しばかり驚いた様子で跡部に告げた。
まさかあんな性格だったとは。
しかし、跡部はその名前に反応した。

「紀宝蘭だと!?アイツが…!」
「何や、跡部あの子のこと知っとるん?」
「……」

実は蘭が新入生代表だった、などとプライドの高い跡部が言える筈がない。
忍足の問いに答えることなく、跡部は蘭の去った方を睨み付けた。

改めて、第一印象――『ふざけんな!次はねぇ!』

次も――というよりも、この先ずっと蘭には敵わないのだが、この時の跡部が知る筈もない。

「あー、跡部、そろそろ行かなチャイム鳴るで?(なんや大変な学校に来てもうたなぁ)」

忍足は廊下の先を睨む跡部を苦笑しながら宥め、選択した学校を間違えた気がしていた。

第一印象――『跡部が敵わん女っておるもんやなぁ』

触らぬ神に祟りなし。
忍足はこの時点で蘭と関わることを避けようと思った。
だがそれは翌年の楓の入学により無駄な決心に終わるのであった。



(09.04.11)

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