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She is queen.〜その女、最強につき〜
王者と女帝・2



《王者と女帝・2》



真田がある病室のドアをノックし、中からの声に応じて入った彼らに続き蘭も病室へ入った。
チラリと見た入口のプレートには『幸村精市』と書かれていた。

「幸村〜元気か〜?」
「精市、具合はどうだ?」
「ああ、今日はとてもいいよ。みんな来てくれてありがとう…あれ、その娘は…?」

ベッドの上にいる幸村が、蘭に目を留めた。
目が合った蘭は軽く会釈した。

「彼女は祖父の見舞いに来てくれた祖父の友人のお孫さんでな…」
「紀宝蘭だ。そこの奴が私とお前を逢わせたいと言うのでな」

蘭がチラッと仁王を見ると、彼はビクッと肩を揺らした。
その様子を見た幸村はニコリと笑って。

「そうか、うちの部員が失礼したね」
「全くだ」
「ハッキリ言うねー。蘭って呼んでもいい?」
「断る」
「あはっ、即答だねぇ」

笑みを絶やさない幸村と表情を変えない蘭という一種対称的な2人の間には、真田達には入り込めない独特の空気が漂っていた。

彼らはハラハラしながら成り行きを見守っている。

「俺のことは精市でいいよ?」
「断る」
「あ、やっぱり?流石、仁王が逢わせたいとか思う筈だ。蘭って面白い」

名前呼びに一瞬ピクリと反応した蘭だったが、特に反論せず呆れたように息を吐き、幸村を見た。
幸村は変わらず笑みを浮かべたままだ。

真田達は冷や汗を流しながら、不穏な空気を払拭しようと桑原が話題を変えた。

「そ、そうだ!幸村、リハビリは順調のようだな!」
「ああ、これならもうすぐコートに立てそうだ」
「そうか、全国では必ず青学に借りを返す」
「青学なんて、潰すっす!」

少しだけいつもの雰囲気になった病室内。
丸井がお見舞いにと置いてあったお菓子を見つけた。

「なぁ、このお菓子食っていい?」
「お前、毎回同じことしてんな」
「ハハ、いいよ。俺はあまり食べないし」
「やった!サンキュー幸村!」

そんな様子を静かに、ふわりと笑んで見守る蘭に気付いたのは誰だったか。
連鎖反応のように見惚れてしまった一同に、蘭は表情を戻した。

「どうした、続けて構わんぞ」
「…そう見られていると気恥ずかしいと言いますか…」

柳生が言うと、蘭はふむと頷いて凭れていた壁から身体を離した。

「ならば私は失礼しよう」

ドアへと向かおうとする蘭を引き留めるかのように柳生は慌てて言い重ねた。

「あ、いえ、そういうつもりで言った訳ではないのですが…!」
「分かっている。だが私は東京まで戻らねばならんのでな、どちらにしろそろそろ失礼せねばならんのだ」
「東京?」

幸村の呟きには答えず、蘭はフッと微笑んだ。

「お前達はチームワークがありそうだな。…奇しくも部長の入院がそれを確固たるものにしたようだが」
「……」

当たっているだけに彼らは言葉が出ない。
蘭は笑みを怪しいものに変えると、そのまま続けた。

「うちの馬鹿どもに伝えておこう。『今年も王者立海に死角はなさそうだ』とな」

そうしてドアに手を掛けた。

「うちの…?」
「馬鹿ども…?」
「待て。それよりも、なぜ立海が王者と呼ばれていることを知っている?」

丸井と桑原の呟きと柳の問いに蘭はニヤリと笑ったまま言った。

「ああ、言い忘れていたが……私は氷帝学園中等部3年、生徒会長をしている。……ではな。幸村、大事にせいよ」

幸村への言葉を最後に蘭は病室から姿を消した。

蘭の消えた後しばらく、病室には沈黙が漂っていた。

「…って、氷帝!?」
「生徒会長!?」
「…ということは、馬鹿どもと言うのは跡部達のことか…」
「あの跡部さんを馬鹿って…スゲー…」

関心する一同だったが、仁王と幸村の言葉にハッとした。

「俺、詐欺師の自信無くなってきたぜよ…」
「…わざと言わなかったんだねぇ」
「言い忘れてたんじゃない。俺達が立海と知って、敢えて言わなかったな」
「すげぇ頭回る女だな…」
「あんな人が生徒会長の氷帝ってどんなとこなんすかね…」
「……」

想像もつかないので、一同考えるのは止めた。

「そういえば…」

柳が思い出したようにノートを開く。

「氷帝のマネージャーは紀宝楓という2年生…」
「え、じゃあ姉妹!?」
「成る程、それならテニス部の事情に詳しいのも頷けるな」

真田がそう言ったが、幸村は首を振った。

「いや、本当に生徒会長だからなんじゃない?蘭なら全部活の戦績くらい把握してそう」
「俺もそう思うぜよ。何にせよ、面白い奴じゃな」

仁王の言葉に反対する者は誰もいなかった。

そして、病室を出た蘭が楽しそうに微笑んでいたのは誰も知る筈もなく。

いつの間にかライバルを増やしていたことに跡部達が気付くのは、後に行われた全国大会でのこと。





(09.02.05)

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あきゅろす。
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