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She is queen.〜その女、最強につき〜
王者と女帝・1



《王者と女帝・1》



ある晴れた日曜日。
朝の自主稽古を終えた蘭が居間に顔を出した。
楓は友達と買い物に行っている。
両親も久しぶりに2人で出掛けた。
いつもなら居間には祖父が寛いでいたりするのだが、今日はシンとしていた。

『午後から友人の見舞いに行く』と言っていたのでもう出て行ったのかもしれないと思った蘭は一人、居間に腰を下ろそうとした。

「おい、誰かおらんかー…」
「大変大変!あ、蘭ちゃん!」
「お祖母様?」

慌てる祖母について祖父の部屋に行くと、祖父が倒れていた。
驚いた蘭が駆け寄る。

「お祖父様、どうしたのですか!?」
「どうやらギックリ腰みたいなの」
「…ギックリ腰?」

普段から鍛えているはずの祖父がギックリ腰だと言われても、蘭は信じられない。

「歳には勝てんのかのう」
「お祖母様、タクシーは呼びましたか?」
「ええ、さっき電話したから…」

話していると呼び鈴が鳴った。
蘭が祖父に肩を貸しタクシーに乗り、病院へと向かった。
診断はやはりギックリ腰で、念のため1日入院するとのことだった。

「蘭、すまないが頼みがある」
「頼みですか?」
「わしの代わりに今日行くはずだった友人の見舞いに行ってくれんか?」

祖父の頼みに蘭は少し眉を寄せた。

「日を改めてはいかがですか?」
「それがな、来週からまた警察で稽古を付けることになったから、予定が取れんのだ」
「生ものも買っちゃったし、蘭ちゃん頼めないかしら?」

2人からそう言われ、蘭は仕方ないと息を吐き、ニヤリと笑い、頷いた。

「分かりました。お祖父様の失態を報告してきましょう」

その笑みに、一瞬だけ祖父は後悔しそうになったのであった。



1時間後、蘭は神奈川の病院に来ていた。
受け付けで病室を聞き訪ねた。

「失礼します。紀宝蘭と申します。連絡はあったかと思いますが、祖父の代理で参りました」
「ああ、聞いている。よく来てくれたね。そこに掛けなさい」
「ありがとうございます。今日は祖父が来れず申し訳ありません。これをお土産にと預かって来たので召し上がって下さい」

そう言って包みをテーブルに置いた。

「おお、すまないね」
「いえ。ところで、具合はいかがですか?」
「いや、そう大した病気ではなくてな、少しばかり胃をやられただけなのだ。今はもう楽になっておる。来週にも退院の予定じゃ」
「そうなのですか、それは良かったですね」

――コンコン。

和やかに話す2人に、ドアをノックする音が聞こえ、静かに開いた。

「お祖父さ……む、すみません、客人でしたか」
「ああいや、構わん。友人のお孫さんでな、代わりに見舞いに来て下さった」
「お邪魔しています」
「どうもありがとうございます」

入って来た男は、丁寧に挨拶をする蘭に好印象を持った。しかも蘭は普通以上に人目を引く容姿をしている。その男もほんの少し蘭に見惚れた。

「こちらは友人のお孫さんで紀宝蘭さんだ。蘭さん、こっちは孫の弦一郎だよ」
「紀宝蘭だ。よろしくな」
「真田弦一郎だ。こちらこそよろしく」
「蘭さん、弦一郎はこう見えて中学3年なんだよ」
「……」

言われて蘭は真田を見つめた。
真田は居心地悪そうにその視線を受け止める。

「…言いたい事は分かるが…」
「見えんな」
「ハッキリ言うな!」

ズバッと切り捨てられた真田を祖父が笑った。

「なかなかやりおるな、蘭さん。弦一郎をうなだらせる事が出来る者はそうそうおらんぞ!」
「恐れ入ります」
「受け入れるでない!」

見た目とは裏腹に、調子を狂わされる。
最初の好印象を返せと言いたくなりそうになる真田であった。

それからしばらく話し、蘭が腰を上げた。

「私はそろそろ失礼します」
「じじいに付き合わせてすまなかったね」
「いえ、楽しかったです」
「お互い体は大事にしようと伝えておくれ」
「はい。どうぞお大事になさって下さい」
「ありがとう」
「ではお祖父さん、俺も精市のところへ行きます」
「うむ」

蘭と真田は共に病室を後にした。

「わざわざすまなかったな」
「いや、構わん」
「では、俺はまだ寄るところがあるので失礼す…」
「おー、真田が女とおるぜよ」
「何、マジ!?」
「なかなかに興味深いな」

別れようとした2人の前に、真田と同じ制服を着た数人の男子が現れた。
彼らも真田同様蘭に見惚れて、一部は頬を染めていた。

「こんな美人と知り合いとは、真田も隅には置けんのう」

ニマニマと笑いながら言う銀髪の男子に、真田は慌てて否定した。

「な、何を言っている!彼女は祖父の友人の孫で、祖父の見舞いに来てくれたのだ!それに先程知り合ったばかりだ!」

真田の慌て様を気にすることなく、蘭は彼らと向き合い名乗った。

「紀宝蘭だ」

――と一言、簡潔に。
思わず呆気に取られながらも、彼らも名乗った。
そこで蘭は彼らが立海大附属中男子テニス部の仲間であることを紹介された。

「(テニス部…)」
「のう、お前さんもうちの部長の見舞いに行かんか?」

仁王の突然の誘いに、蘭は訝しげに眉を寄せ少し考える様子を見せた。

「私は部外者だが?」
「構わん構わん。幸村なら気にせんよ。…というより、お前さんと幸村を逢わせてみたいんじゃ」
「は?…私を貴様の道楽に付き合わせるのか?」
「(貴様とか言われた!怖いぜよ…)ま、まぁそういうことになるがの」

不機嫌をあらわに睨まれ、仁王は一瞬怯んだものの飄々とした態度は崩さない。

「(怖…っこの人怖いっす!)」
「(さ、逆らわねーほうがいいぜぃ!)」

2人のやり取りを見て、蘭に逆らうことはしない方が賢明だと、瞬時に悟った立海メンバーであった。

「ふむ、だが貴様のような胡散臭い奴が逢わせたいという部長なら、逢ってみるか」
「何気に酷いのう…」
「あの毒舌…幸村にも負けねぇんじゃね?」

少しへこむ仁王を見て丸井は思った。

そして蘭は立海メンバーと共に部長、幸村の病室へと足を向けた。





(何気に続きます☆)
(09.02.01)

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あきゅろす。
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