She is queen.〜その女、最強につき〜
コネコ☆パニック
《コネコ☆パニック》
朝練中、テニスコートに突然の侵入者がやって来た。
「ニャ〜オ」
「んっ?」
楓の足元に何かが触ったので驚いて下を見ると、子猫が彼女の足に擦り寄っていたのだ。
「可愛い子猫〜!どうしたの?迷子?」
楓は足元の子猫を抱き上げて、頭を撫でてあげた。
「にゃ〜お」
子猫はくすぐったそうに目を細め、楓にさらに擦り寄る。
楓もそんな可愛い子猫に目を細め、よしよし、とさらに頭を撫でた。
その光景を目にしたレギュラー陣は揃って楓の周りに集まってきた。
「どしたん、その子猫?」
「どっかから入って来ちゃったみたいですよ」
楓は子猫をレギュラー陣の方へ向けた。
向日が子猫に触ろうと手を伸ばした。
「へぇ〜ちっちゃいなー」
「…フギー!」
「イッテー!」
子猫は威嚇して、向日の手を引っ掻いた。
ムッとして睨む向日に、子猫は尚も威嚇する。
「んだよ、この猫ー」
「アホやなぁ。猫はこうやって抱くんやで」
――と忍足が抱こうとするが、子猫は同じように忍足にも引っ掻いた。
「ニャー!」
「いったぁ!」
「やーい!侑士も引っ掻かれてやんのー」
「このチビ…」
「うにゃぁ〜」
2人を嘲笑うように跡部が手を出した。
「バカはお前だ忍足。猫の扱いを分かってねぇな!」
しかし。
「ニャア!」
「痛っ!」
「プッ…跡部もあかんやん」
「この俺様に盾突くとはいい度胸だなぁ、アーン!?」
忍足に笑われた跡部が子猫を睨み付けた。子猫も跡部を睨んでいるように見える。
「よしよし。もう!驚かせちゃダメですよ」
楓が子猫を撫でて落ち着かせる。
子猫はかえでの胸に寄りかかり、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
――子猫が憎らしいと思ったのは言うまでもない。
「でも、どうしたのかなぁ…お母さんはいないの…?」
しばらく子猫は楓の腕の中にいたが、突然何かに気がついたように飛び降りた。
「きゃっ…あれれ、どこ行くの〜?」
子猫に追いつくことはできず、あっという間に消えてしまった。
子猫の消えた辺りを眺め、楓は心配そうに呟いた。
「大丈夫かなぁ…」
放課後、蘭は弓道部には出ず、生徒会室で仕事をこなしていた。
「にゃぁ」
「…?」
何かの声が聞こえたような気がして、蘭は窓を開けた。
生徒会の役員たちは不思議そうな顔をして蘭を見た。
「会長、どうしたんですか?」
「いや、何か聞こえて…」
「にゃぁ〜」
今度はハッキリと聞き取れた。猫の鳴き声だ。
かなり近くから聞こえる…ということは、少なくとも下ではない。
蘭は窓から見える範囲を見回してみた。
「あ」
ちょうど正面の木の枝に、子猫が蹲って鳴いていた。
震えているようだ。登ったはいいが、降りれなくなってしまったらしい。
蘭は手を伸ばし、子猫に来るように促す。
「ほら、こっちに来い…危ないぞ」
「にゃぁ…」
しかし、怯えた子猫は動く気配すらない。
蘭は小さくため息を零し、窓から身を乗り出した。
「か、会長!?」
「何してるんですか!?」
周りが驚く中、蘭は枝に限りなく近づき、手を差し伸べた。
「…大丈夫だ」
真っ直ぐ見つめてくる蘭に、子猫が意を決して体を上げた瞬間…!
「!!」
「にゃあ!」
子猫は足を踏み外し、枝から落ちてしまった。
「…っ…!おい、鳳!!」
「え?」
蘭が下を見下ろすと、ちょうど通りかかった鳳がいた。
咄嗟に聞こえた蘭の声に、鳳が思わず上を見上げると。
「にゃー!」
「うわわ!」
「受け止めろ!」
「えええ!?」
一瞬慌てた鳳だったが、なんとか子猫を受け止めた。
「ふぅ…よかった〜…ていうか、びっくりした〜」
「鳳、子猫は大丈夫か!?」
「え、蘭先輩?」
蘭が見下ろし叫ぶ。
鳳は心配そうな蘭の表情に驚きながらも、子猫を抱えて見せた。
「大丈夫ですよ、このとおり」
すると、蘭は心底ホッとしたような表情でふわりと微笑んだ。
「すまなかったな、ありがとう」
「い、いえ!えっと、この子猫どうしたら……あっ…」
鳳が子猫を見ながら問いかける途中で子猫は飛び降りて何処かへ駆けていってしまった。
鳳はすまなそうに上を見上げた。
「先輩、すいません。猫…」
「いや、無事だったならそれでいいのだ。きっと家に帰ったんだろう」
蘭は微笑んだまま見下ろし、鳳に礼を言うと生徒会室の中へ消えた。
残った鳳は蘭の微笑みを思い出して顔を赤らめていたが、通りがかった宍戸に変な目で見られて慌てていた。
放課後のテニス部の活動も終わりを告げ、いつものようにレギュラー陣と楓が着替えを終えて部室から出てきた時だった。
「にゃぁ〜」
今朝の侵入者がまたも一同の前に現れた。
楓が「こっちにおいで〜」と微笑み手招きすると、子猫は楓ではなく、鳳の方へと寄っていった。
鳳が子猫を抱き上げた。
「…何でお前なんだよ」
「鳳くん、この子と知り合いなの?」
「俺なんて引っ掻かれたのに!」と喚く向日に鳳は苦笑して、部活前の出来事を話した。
「…というわけですよ」
「なぁんだ、そっか〜」
「なるほどな。だからお前のことは覚えてたって訳か」
「猫って結構賢いんですよね〜。あ、お姉ちゃんが見つけたらどうしよう」
楓がポツリと呟くと、一同は目を丸くして。
「どういうことだ?」
跡部の言葉に楓が苦笑して言った。
「お姉ちゃんの弱点なんですよ、猫」
「弱点!?」
これはいいことを聞いた!と跡部らが思う中、鳳だけはそうは思わなかった。
「(いや、でもあの時の先輩は…)」
鳳が腕の中の子猫を見て思っていると、突然、子猫は鳳の腕からヒラリと飛び降りて走り出した。
そして、向かった先にいた人物に飛び掛った。
鳳以外のレギュラー陣は「何て恐ろしいことを!」と目を見開いた。
子猫が飛び掛った人物は蘭だったのだ。
蘭がどういう行動をするのか一同はドキドキしながら見ている。
蘭は飛び掛ってきた子猫を難なく受け止め、その背を優しく撫でて、そして――。
思いっきり笑顔になった。
「どうしたお前、帰らなかったのか?よしよし、可愛いな〜」
「(……キャラ違!!)」
楓以外の一同は驚いて口を開けていた。それは鳳も然り。
「お姉ちゃんって猫が大好きなんですよね〜」
「(…そういう意味の『弱点』かー!!)」
「しかも、どうしてか私よりお姉ちゃんに懐いちゃうし」
楓がクスッと微笑んで蘭を見た。
「家がないならうちに来るか?ん?」
にゃお、と子猫が返事すると、蘭は「そうか」と言い微笑んだ。
子猫は気持ちよさそうに蘭の胸もとに身体を預けて寝息をたてはじめた。
朝、楓の腕の中にいたときよりも安心した様子で眠っている。
「楓、先に帰るからな」
「はぁ〜い」
口を開けっ放しで呆ける一同を置いて、蘭は去っていった。
「…何だあの変わり様は…」
跡部が呟いたのを聞きとめ、楓がクスクス笑った。
だが跡部は不敵に笑い出した。
「フッ…ハハハハ!女帝の弱点が猫か!!所詮あの女も人の子だな!」
「でも跡部も『蘭可愛い』とか思たやろ?」
「!!」
図星だったらしい。
(09.01.31)
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