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She is queen.〜その女、最強につき〜
家庭の事情


これほど言葉使いの異なる姉妹も珍しい。



《家庭の事情》



「会計、先月の会計報告を出してくれ。副会長、来週に行う生徒総会の議事録の確認を」

テキパキと役員に指示を与え、自らの仕事をこなしているのは、氷帝学園の最強集団生徒会執行部、その頂点に君臨する、生徒会長、紀宝蘭。
その仕事ぶりは、歴代の生徒会長の中でも群を抜いて素晴らしいと評価されている。
蘭は生徒会の傍ら、弓道部の部長も兼任しているため多忙を極める。が、そんな様子を全く見せず、むしろ余裕さえ見られる彼女は、生徒や先生からも『女帝』と称される。



「それでは、10分間の休憩で〜す!」

首から提げたホイッスルを吹いて、総勢200名はいようかという部員たちに今日も笑顔を振りまくのは、氷帝学園一最強の部、男子テニス部のアイドルマネージャー、紀宝楓。
生徒会長である姉、蘭は『綺麗な』女の子だが、楓は『可愛い』女の子。
誰もが守ってあげたいと思わせる、そんな女の子だ。

楓はその可愛さゆえに当然モテる。当の本人はかなり天然な性格なので気付いてはいないが、それでも月に数回という頻度で告白されている。
そして、姉の蘭も実はモテるのだ。あの俺様跡部でさえも歯が立たないのにもかかわらず。
しかも、天然な性格の妹とは全く逆の性格。
そんな彼女がモテるのがテニス部レギュラーには不思議でならないらしい。
同じ家に育っているのに、何故にこうも正反対な性格になってしまったのだろうか?



「今日さ、昼休みに蘭が後輩に呼び出されてたんだけどさぁ。あれ、多分告白だぜ」

部活の休憩時間中、蘭と同じクラスの向日が切り出した。

「またかいな。今月何回目や?」

忍足が聞き返した。しかし、向日は指折り数えて途中でやめた。

「わかんねー。でもさ、そん時蘭、弁当食ってる途中だったんだよな」

そこまで言うと、忍足に視線を遣った。忍足は何となく感じたのか。

「あー…もしかして?」
「そ。途中で呼ばれたもんだからすっげー不機嫌になってさ。取りあえず廊下まで行ったけど、いつもの口調で『私は今昼ご飯の途中で、それをお前に止められる筋合いはない。用があるなら放課後に生徒会室に来てもらうか、今ここで言え』って言ったんだよ」
「ほんで、その後輩は泣いて帰ってしもた…と」
「ピンポーン大正解!」
「なんつー奴や…。その後輩に同情するわ…」
「だろー!?あんな女のどこがいいのか理解できねーよな」

などという会話を交わしていたところ、ふとその疑問が浮かんだ。

「そういえば、楓ちゃんと姉妹なのに、どうしてあんなに言葉使いとか違うんでしょうね?」

丁度練習が一区切りついた鳳が2人の後ろから問いかけた。
鳳と一緒にいた宍戸が言った。

「俺は1年の時に同じクラスだったけどよ、あいつは入学した時からあの口調だったぜ?」

4人はうーむ…と考え込んでいたが、練習時間の終わりを告げる楓のホイッスルが鳴ったので「ま、いいか」といつものように楓への下へと駆けて行った。
蘭よりも楓の方が大切な彼らには、そんなことはどうでも良かった。

しかし、その日のうちにその疑問は解消されることとなるのだが、今の彼らは知る由がない。



帰り道。いつもの楓争奪戦はというと、やはりというか、彼女の『皆で一緒に帰りましょう?』の一声により全員一緒。
賑やかな一団が歩いていると、先のほうで突然悲鳴が聞こえてきた。

「キャー!誰か…っ!引ったくりー!!」

見ると、鞄を取られ、よろけた女性と、その女性から盗ったであろう鞄を手にこちらへ向かってくる男が。
そして、丁度自分たちとその男の間には―――

「あれ?お姉ちゃん?」

それからの出来事はほんの一瞬のことだった。
男の正面に仁王立ちした蘭は、即座に男の下に入り、見事な一本背負いを決めていた。それは、模範的なほどに綺麗なもので。
跡部たちは思わず呆然としていたが、男を押さえていた蘭が言った、「おい、跡部!警察を呼べ!!忍足、鞄!!」の声に我に返り、引ったくり犯は御用となった。
警察で一応の調書などを取られ、「後日感謝状を…」などというやり取りが終わり、 蘭と楓、跡部らはようやく警察から解放された。

「蘭、お前よくあの状況でああいうことできるな」

向日が感心して言うが、当の蘭はどうでもいいような素振り。

「…別に。あの男が私の進路を妨害してきたから排除したまでのことだ」

蘭の言葉に一同固まる。
どこまでも我が道を行く女。それが蘭だ。
跡部が呆れて溜息を吐いた。

「…お前らしいな」
「そんなとこやろと思うたけどな…」
「そ、そういえば、蘭先輩って柔道できるんですか?さっきの一本背負い、見事でしたよ!」

鳳が静まった空気を和ませようと尋ねたが、蘭は鳳をチラリと見遣り、また視線を前に戻した。
仕方ないなぁ、と苦笑して、それに答えたのは楓だった。

「うち、一応、道場やってるんですよ。お姉ちゃんは私が物心ついたころにはすでに始めてましたから」
「「「道場!?」」」
「あれ、言ってませんでしたっけ?祖父が合気道の師範なんです」
「柔道は、祖父の友人のところで習ったのだがな」

それを聞いて反応したのは鳳。

「紀宝…合気道…って、結構有名な家柄ですよね。気付かなかった…」
「俺も知らなかったぜ…」

宍戸がポツリと言うが、蘭はやはりどうでもいいらしい。

「…言ってないから知らないのは当然だ」
「その上蘭は弓道部だし。楓ちゃんからは想像できねーし!」

向日が言うと、楓が笑った。

「私はやってないですからね」
「え、そうなん?」
「ええ。特に強制されてたわけでもないですし、私はピアノとか習ってましたし」
「そんならなんで蘭は弓道部に入ったんや?」

忍足の問いは蘭が答えた。

「精神統一するのに適しているし、興味があったからな。それに、合気道も柔道も、段持ちだしな」
「ほんなら蘭、お前の変な言葉使いは道場の影響なんか?」
「…忍足、貴様、私に向かって変とは何だ?」

忍足は蘭に睨まれ、怯んだ。

「(怖…)…す…すまん…」
「…フン……私は祖父とよく一緒にいたが…概ね祖父や柔道の師匠である祖父の友人の影響だな」

これで部活の時の疑問が一つ解消された。

「あ、そういえばお前さぁ、いくら自分の昼の時間に呼ばれたからってあの言い方はねーだろ」

向日が言うのは昼休みの出来事のこと。

「それこそどうでもいい質問だな。私の所有する時間を他の者が勝手に乱す謂れはない。あれぐらいで泣いて帰ってしまうような奴など、論外だ」

その言葉に一同はまたも静まった。

(こういう女なんだよ、こいつは!!)

どこまでも我が道を行く女、それが紀宝蘭である。



(天下無敵な女帝サマを書きたいのです。…ていうか、跡部が静かです)

(06・10・30)


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あきゅろす。
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