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She is queen.〜その女、最強につき〜
ライバル増量中?―後編―



《ライバル増量中?―後編―》



テニスコートでは、死闘が繰り広げられていた。

「(負けたら蘭に殺される…っ!)」
「(俺はまだ死にたない!)」

ものすごく必死な氷帝陣に、手塚たちは息を呑んだ。

「何か、鬼気迫るものがあるよね…」
「すごいなぁ…俺たちもあれくらい真剣にならないとな!」
「関東大会の時とは比べ物にならない…またデータの取り直しか」

彼らの心中は判らない不二、大石、乾が氷帝の真剣さにしきりに関心していた。

「「「ひょーてい!ひょーてい!!」」」
「キャー!跡部様〜!!」
「忍足く〜ん!!」

フェンスの外からいつの間にか増えた氷帝コールが響き渡る。

「…外野うるさい…ていうか、ギャラリー増えてない?」

越前リョーマが煩そうにポツリと呟いた。

「あ、きっと一緒に来てる弓道部の人たちだと思いますよ」

いつ移動したのか、横で楓が言った。
可愛らしい顔を間近に見て、越前の鼓動も思わず跳ねる。
しかし、それを表に出す越前ではないが。

「弓道部?」
「はい。弓道部もここで試合なんだそうです。もう終わったみたいですね」

何だか嬉しそうな様子で楓は外にいるギャラリーを見た。誰かを探しているようにも見える。
それよりも、気になることが一つ。

「ねぇ、俺あんたより年下なのに、敬語なんて使わなくていいんだけど」
「そうですか?でも、他校の方ですし」

なんと律儀な。そんな可愛い性格が氷帝内でも人気なのだが。

「俺は気にしないからさ、敬語なんて使わないでよ」
「うーん…そう?じゃあ、そうするね」

少し悩んだ後、ニコッと微笑んで快く了承した楓に、越前はドキリとする。

「あのさ…」

越前が思わず楓に近寄ろうとした瞬間。

「おい」
「っ!」

ゾクリと寒気を覚えるような声が掛かった。越前は、恐る恐るゆっくりと後ろを振り向いた。
そこにいたのは氷帝の女生徒だった。越前は少し安心して、またいつもの生意気そうな顔つきに戻ったのだが。

「あ、お姉ちゃん。もう終わったの?」
「先ほどな。それより、あいつらは?」
「…ちょっと微妙、かな」
「…ほほぅ…」

そんな会話が横でなされている。
越前は自分よりも少し高めに視線を上げて、しげしげと見つめた。
蘭はその視線を軽く受け止め、同じように見つめ返した。
少しの間見つめ合っていたが、先に視線を逸らしたのは越前だった。

「アンタ、この人の姉なんだ?」
「そうだが、何か文句でも?」
「イヤ、ないっスけど(ぜんっぜん似てねェ…)」

確かに2人とも顔立ちは整っているのだが。

「お前、1年か?」
「…そうっスよ」
「そうか、お前が青学のルーキーか」

蘭は品定めでもするように越前を凝視する。
その真っ直ぐで射抜かれそうな視線に、越前は視線を外したくなったが、出来なかった。

「…あのさ、何か文句あんの?」
「いや、ない」
「あんまりジロジロ見ないでくれない?」
「あの跡部が認めていたと言うからどんな奴かと思ったが…お前、良い目だな」

フッと微笑み言う蘭と、「跡部が認めた」という言葉に越前は少し照れた。

「……へぇ、そう…」

コートの反対側にいた青学レギュラーたちは、越前の様子に驚いていた。
あんなに素直な、というか、照れたような彼をあまり見たことがないからだ。いつも生意気そうに踏ん反り返っているのに。
彼にそんな表情をさせた氷帝の女生徒が少し気になる。

蘭が越前から視線を外し、コートを見つめた。
現在試合を行っているのは芥川。どうやら最後の試合らしい。
試合中というのに相変わらず眠そうにしていたが、蘭に気付いた途端に覚醒した。

「あー、蘭だ!よぉっし、ちゃちゃっと終わらせよーっと」
「…蘭?」
「そ、うちのせいとかいちょーさん」
「へぇ」

相手は関東大会でも戦った不二だったのだが、芥川の言葉を受けて視線を遣った。

いつの間にか楓の横にいた越前に内心ムッとしながらも、その後ろにいた氷帝の女生徒に目が奪われた。
彼女がその『蘭』という人だろうか。
試合中というのに一瞬見惚れてしまった不二に芥川が気が付いて、頬を膨らませる。

「あー、不二くん、蘭に惚れちゃダメだよー!」

言葉の中に芥川が蘭を気に入っているというのが聞き取れて、不二はニッコリ笑った。

「それは何とも言えないなぁ」

飄々とプレイしながら、不二は答えた。
芥川は「不二くんムカツクー!」と、ラケットを持つ手を握り直した。

「…何だあの試合は…」

蘭が思わず呟いた。
実力のある2人の試合なので当然と言えばそうなのだが。

「関東大会、思い出すなぁ〜」

のほほんと呟いた楓。
越前も同じ感想だった。

「…大会の時よりスゴイけどね」

思いっきり楽しそうな芥川。
いつの間にか開眼している不二。

コート上のオーラは一種異様であった。

「…なるほど」

一人納得の乾がノートに何かを書き込んでいたのは誰も知らない。



「…あぁーー!もー、くやCーー!!」

結果はやはりというか、不二の勝ち。
しかし、本当は悔しくないのであろう、芥川は開き直ってコートから出た。

「不二くんやっぱり強いから仕方ないかー」

これで最後の試合が終わった。
両校のメンバーが並んで挨拶を終えると。

「蘭ー!!」
「あ、ジロー!」

いの一番に芥川が蘭の元へと走って行った。
芥川が蘭に飛びつこうとしたが。

「やめんか、暑いのに鬱陶しい!」

と冷えたオーラで蘭が一蹴し、芥川は寸前でピタリと止まった。
「うー、蘭のイジワルー」と呟き芥川は大人しくなった。

「すごいねー、おたくの生徒会長さん」

芥川の様子に微笑み不二が呟いた。

「あいつに勝てる奴は誰もおらん…」
「…そういやさぁ、俺たち試合負けたんだっけ…」

不二の言葉に忍足が返し、その後呟かれた向日の言葉に氷帝陣は固まった。

「…岳人…言うんやない…殺されるやろ!」
「ご、ごめん…!」

あの跡部でさえ、少々青ざめているような。
試合中の鬼気迫る雰囲気は彼女のせいなのだと、ようやく理解した青学メンバーだった。



「次は勝つ」
「あぁ。楽しみにしている」

跡部と手塚のやり取りを遠くから見ていた蘭がふいに近付いて来た。

「…蘭?」
「お姉ちゃんどうしたの?」
「……」

一同がそれに気付いて蘭の方を振り向いた。

「…国光か」

蘭の口から出たのは意外な名前。

「あぁ…蘭」

その名の持ち主も、それに静かに返した。
ポカンとする一同をよそに、会話は始まった。

「お前、テニス部の部長だったのか」
「言ってなかったか?」
「生徒会長としか聞いていなかったぞ」
「そうか。すまなかったな」
「いや、それはいいが。…あぁ、明日伺うと先生に伝えて貰えるか?」
「明日だな。わかった」
「よろしくな、国光。今日はテニス部と弓道部が世話になった。また次があればよろしく頼む」
「いや、いい試合だった。こちらもまた機会があればお願いしたい」

話の内容はともかくとして。
その会話に水を差したのは不二だった。

「…君たち、知り合いなの?」

不二の問いに、2人が振り向いた。答えたのは蘭だ。

「知り合いだが?」

蘭は本当に問いに対しての答えしか返さなかった。
そして、もう用はないという様に、校門の方へと足を向けた。

「終わったのなら帰るぞ。テニス部もさっさと来い。お前らが来んと出発出来んからな」

いつものように、蘭は颯爽とその場を去って行った。

「おい、手塚…」
「何だ?」
「お前ら…」
「うちの祖父のところに柔道を習いに来ているだけだ」

跡部の言わんとするところを、手塚が的確に先回りして答えた。

「…そうか。それだけだな?」
「……それだけ、とは?」
「何にもねーなら別に構わねェよ。おいお前ら、行くぞ」

ホッとした様子で去る跡部の姿を、手塚は複雑な表情で見ていた。

「要するに」

ぬっと湧いて出たのは乾だった。
ノートを手に、帰っていく氷帝の生徒たちを見遣った。
いつの間にか、蘭は氷帝テニス部のレギュラーたちに囲まれながら歩いていた。

「彼女は氷帝ではかなりファンがついているようだね。それに」
「あの跡部たちでさえ、ってこと?」
「そういうことだな」

乾の言葉を継いで不二が言った。
それに乾は頷いて肯定した。

「でもぉー、クールっていうか、何かすんごい威圧感ある人だよね」

「でもカッコいーねー」と菊丸が言うと、大石も頷いた。

「さすが氷帝っていうか…」
「あはは…個性が強いよね」

河村も肯定する。

「でも」
「?何だよ、越前」

蘭の後姿を見つめ、越前はポツリと呟いた。

「俺は嫌いじゃないっス」

少し、照れながら。

「…何かあったのか?お前」
「へぇ、そうなんだ」
「…何スか、不二先輩?」
「…別に?」

桃城が不思議そうに「熱でもあんのかよ?」と手を遣ったが、別にそういうわけではないらしい。
それを興味深そうにノートに書き込む乾と、どうやら蘭に興味を持ったらしい不二。

そんな様子を離れた所から複雑そうに見る手塚は、内心で溜息を零した。

「(何もないわけないだろう…なぁ、跡部?)」

手塚にも氷帝での蘭の人気は想像がついていた。
何しろ、自分も初めて会った時から同じなのだ。
今回のことで青学にもファンが出来たのは言うまでもなく。
しかも、不二や越前といった厄介な奴までも。

「(困ったものだな)」

手塚は再び心の中で溜息を零した。

氷帝の女帝は順調にファンを増やしています。





(08.11.25)

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あきゅろす。
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