She is queen.〜その女、最強につき〜
ライバル増量中?―前編―
「跡部、今日は私達も同じところで練習試合でな。行き帰りは一緒だ、よろしく頼む」
練習試合のためにバスに乗り込むと、先に乗り込み、一番後ろの真ん中にまさに女帝のごとく座っていた蘭が言った。
「わーい!お姉ちゃんと一緒だー!」
楓は姉と一緒がよほど嬉しいようで、パッと顔を輝かせた。
《ライバル増量中―前編―》
本日、氷帝学園の男子テニス部と弓道部は練習試合。
偶然なのか、同じ学校で行われるため、行き帰りは同じバスでの移動となった。
姉大好きの妹、楓は蘭と一緒に座りたがったが、今、蘭の横…いや、膝に頭を乗せるのは。
「…何をしている」
「…だって眠いんだも〜ん…ス〜…」
「ジロー先輩ずるーい!」
蘭の言葉を聞いているのか、はたまた無意識なのか。
芥川は蘭の膝にコテン、と頭を乗せ、早速寝息を立てていた。
恨めしい、もとい羨ましい視線を芥川に送りつつ、バスは一路、相手校へと走り出した。
暫くして、本日の練習試合の相手校、青春学園に到着した。
バスを降り、テニス部と弓道部はそれぞれの試合会場へと分かれる。
蘭は別れ際にフッと微笑み「負けるなよ」と一言置いて行った。
あの女帝にそんなことを言われて負けた時には何をされることやら。
微妙に顔を青ざめさせつつ、一同はテニスコートへと足を向けようとしたのだが。
楓がいない。
「楓はどこ行ったんだ?」
「さっきまで蘭に見とれてたじゃねーか」
周りを見てもどこにも楓はいない。
すると、芥川が言った。
「先に行くって言って行っちゃったよ〜?」
「「「何ィーー!?」」」
蘭の次に氷帝でモテる楓のこと。あの青学テニス部だって例外なく落ちる!!ヤバイ!楓が危険だ!特に、あの天才の名を欲しい侭にしている奴にだけは、先に会わせたくはない!!
全員、大慌てでテニスコートに向かった。
「ジロー!何で言わねーんだ!!」
「だって、みんな蘭のこと見て青ざめてたC〜」
「仕方ないやん!あの最後の顔見たやろ!?」
「俺見ちゃったよー!負けたら殺されそうな…あの…っ」
「言うな、岳人!思い出しただけでも怖ェ…」
「そんなことより、楓ちゃんですよ!!」
ダッシュでコートに向かう一同。アップはしなくてもよさそうだ。
その頃、コートでは。
「そろそろ着く頃だな、手塚」
大石が時計を見て言った。
「そうだな…全員集合!」
手塚は頷いて、部員たちに集合を掛けた。
「どうしたの、手塚?まだ始まったばかりなのに」
不二が不思議そうに言うと、他の者も同様に手塚を見た。
「実は、今日これから練習試合をする」
「「「練習試合!?」」」
「聞いてないっスよ、そんなの」
驚いてリョーマが言った。もっと驚いて桃城が言う。
「あ、相手は誰っスか!?」
「あぁ、相手はひょ…」
手塚が『氷帝学園』と言おうとしたところへ、可愛らしい声が掛けられた。
「すいませーん、氷帝学園の者ですけども〜」
声のする方を見ると、フェンスの向こうにジャージ姿の女の子が。
手塚はそちらへ歩み寄り、中へ入れた。
「氷帝の?」
「あ、はい、マネージャーの紀宝楓と申します。皆さんはもう少しで来るかと思います」
「あぁ…わかった、今日はよろしく頼む(…紀宝?)」
手塚は楓の名前に多少引っかかりを感じつつ、言葉を返す。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
楓はニコッと笑って、お辞儀した。
彼女が顔を上げた時にはすでに遅し。
「桃ォ〜、あの子めちゃくちゃ可愛いね〜!」
「そっスねェ〜」
早速、楓の笑顔に落ちた者がいるようだ。
「楓ちゃんかぁ…いい名前だね」
「ありがとうございます」
不二が楓の手を取り、にこやかに話しかけた。
楓もにっこりと微笑み返す。
「こら、不二!何してんのさ!!ていうか、なに名前で呼んでんの!!」
菊丸が慌てて2人の間に入り込もうとしたが、何かのバリアのようなものに阻まれて、あえなく失敗に終わっていた。楓はそれを不思議に思いつつも「名前でも気にしないですよ〜」と微笑んだ。
「いい機会だから、仲良くなろうかなって」
「何だよ、それ!!」
菊丸が言うのを無視して「部活っていつ休みなの?」などと聞いている。
――と、そこへ跡部たちが到着した。
「「「楓!!」」」
ガシャン!と荒々しくフェンスを開けて、跡部たちは楓に向かって駆け寄ってきた。
「楓ちゃ〜ん!何で先に行くんや!!心配したで!?」
忍足がギューっと楓に抱きついた。
「おおお忍足先輩!?」
「侑士、抜け駆け禁止!!」
「離れろ、忍足!」
「イテッ!」
跡部が忍足に蹴りを入れ、楓から離させた。
「ったく…先に行くんじゃねぇよ」
跡部が楓の頭にポンと手を乗せ言った。
「ごめんなさーい」
上目遣いで謝る楓に跡部は弱い。
「いや…別に無事ならいい」
あんなに動揺する跡部を初めて見た。青学テニス部員たちは、その光景を呆然と眺めていた。…というよりも、あんな可愛いマネージャーがいるなんて羨ましい、という気持ちであったのだが。
「お前ら、何をしにここに来たんだ…」
手塚が見かねて声を掛けた。まぁ、あの笑顔を見てしまえばああなるのもわかる気はするが。
パン!!
小気味良い音と共に、矢は的の真ん中に命中した。
スラリと伸びる背中に、後ろに控えていた青学、氷帝、両校の弓道部員たちは、見とれて声も出ない。
こちら、場所は弓道場。試合は僅差で氷帝の勝利。時間が余ったので、蘭が模範を見せていた。さすがに全国に知れ渡る紀宝蘭の名は伊達ではない。
ここでもファンが増えたようだ。
「あ、あの、お疲れ様です!これ使ってください!」
一人の青学の女子部員がタオルを差し出した。
「やだ、ズルイ!紀宝先輩!私のタオル使ってください!」
蘭は周りを女子部員で囲まれてしまった。
男子は女子のパワーに圧倒され、近づけない。
「「「(いいなぁ…女子)」」」
羨ましそうにその光景を眺めていた。
蘭本人はというと、やはり氷帝の女帝。ふわりと微笑んで。
「お前たちの気持ちは有難いが、自分のタオルがなくなるだろう?気持ちだけ貰っておこう」
「「「…ッ…キャーッ!!」」」
一瞬の後、弓道場から黄色い声がこだました。
「「「さすが我らが部長…素敵だ…っ!」」」
氷帝の部員たちは、予想通りの状況にグッと拳を握り満足そうだった。
全てが終わり、蘭たちは弓道場を後にした。すると、途中で部員の一人が彼女に寄った。
「あの、部長…テニス部の方はまだ終わってないみたいですよね…?」
上目遣いでいう部員に、すぐに察しはついた。蘭は呆れるが、ニヤリと笑った。
「そのようだな。仕方ない、無様な姿でも見に行ってやるか」
「「「きゃー!さすが部長!!」」」
女子部員らが、嬉しそうにテニスコートに駆けていった。
その様子を後ろから眺めながら、蘭も楽しそうな表情でテニスコートへと足を向けた。
(08.11.24)
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