今日も変わらず地球は回る
別れへのカウントダウン
『ハッピーニューイヤー!!!』
『明けましておめでとうございまーす!!!』
「明けましておめでとう雅治」
「おめでとう彩音。今年もよろしくな」
「こちらこそ」
テレビのカウントダウンと共に新年の挨拶を交わし、仁王と彩音は微笑んで軽くキスをした。
――と同時に仁王の部屋のドアがノックされ、彩音はビクッと固まった。
そんな彩音をクスリと笑い、仁王はドアの向こうに声を掛けた。
「なんじゃー?」
「お邪魔しちゃってゴメンね〜!明けましておめでとう!」
ガチャリとドアを開け顔を覗かせたのは仁王の姉で、ニヤリと笑いながら軽く手を挙げた。
固まる彩音とムッとする仁王を見て、随分楽しそうだ。
「お、おめでとうございますっ」
「はいはいおめでとさん。つーか、ホンマに邪魔やけぇの」
「あんたの話は聞いてない。彩音ちゃんこっちにおいでよ〜」
「あ、はい」
「彩音、行かんでよか」
「でも新年のご挨拶はしなきゃ、ね?」
ニコッと笑う彩音に溜め息を零し、嫌々ながらも仁王は腰を上げたのであった。
新年も二人で迎えようと思っていた仁王だったが、母親に彼女ができた事と彩音が一人暮らしだという事を話すと、じゃあ一緒に年越ししましょう!と言い出し、拒む仁王に構わず決定事項となり、彩音は仁王家にて新年を迎えたのであった。
リビングに入ると、耐え切れず眠ってしまった弟以外の家族が揃っていた。
「明けましておめでとうございます」
「おめでとう彩音ちゃん」
「これから初詣でに行くんでしょ?気をつけてね」
「はい」
仁王の両親とも挨拶を交わししばらく話した後、初詣でに行くために二人は家を出た。
これまでイタリアで賑やかに迎えていた新年とは違う、好きな人と迎える新しい年は、どこか新鮮な気持ちがしていた。
コートのポケットの中で手を繋いで歩く夜の道も、寒さなど感じることなく心も体も暖かい。
前に神社の鳥居が見えてきて、かなりの人出でごった返す境内へと足を進めた。
「凄い人じゃのぅ」
「元旦だしねぇ」
人波に流されるように社殿まで辿り着いた二人は、賽銭を投げて手を合わせた。
「(少しでも長く、雅治といられますように)」
1分でも1秒でも長く。
いつか必ず訪れるであろう別れの日まで。
先に顔を上げた仁王は、強く願う彩音を見つめてふっと微笑んだ。
「(ずっと一緒にいような)」
しかし、同じ想いを願ったこの日から、別れの日へのカウントダウンが始まったことをまだ二人は知らない。
(090913)
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