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今日も変わらず地球は回る
歩む道は同じだから



あれから二度の春を越え、三度目の春を迎えようとしている。
暦の上ではもう春だが、肌を掠める風はまだ冷たい。
しかし、澄み渡る青空が、若者達の新たな門出を祝っているかのようだ。

今日は全国的に高校の卒業式が行われている。
都内某所にある氷帝学園もその一つで、既に式は終わり、門付近で卒業生と在校生が別れを惜しんでいる。

「跡部様ー!」
「跡部せんぱーい!」
「忍足くーん!」
「宍戸くん!」

跡部達も後輩や同級生に囲まれ、日吉や鳳が「中等部の時と変わらないな」と苦笑した。
そこに新たなざわめきが追加された。

「あ、彩音さん!卒業おめでとうございます」
「おめでとうございます、彩音さん」
「ウス」
「ありがとう!長太郎くん、若くん、崇弘くん」

三人からの花束を受け取りニコッと笑うと、周りからほう…と溜め息が零れた。
彩音は、いつの間にか跡部に次ぐほど、この学園での人気を掴んでいた。立海で培われたものが活きたのだろう。
途端に後輩に囲まれ困った顔になるが、跡部が彼女の手を引いて助けた。

「おい、行くぞ。待ってんだろ?」
「あ、うん」
「ま、多少待たせるぐらいでもいいがな」
「もう!」

言いながら跡部家のリムジンの開かれたドアの前に立ち、見送る忍足達に向き合った。

「じゃあね、皆!」
「…ほんまに行くん?」
「行くよ?ていうか、ちょっと行ってくるだけじゃない。今生の別れじゃあるまいし」

そやけど寂しいわー、と抱き着く忍足の背をぽんぽんと叩いて、彩音は行ってくるね、と笑った。

「あっさりやなぁ」
「だって早く行きたいもん」
「あー、はいはい。ほな行ってらっしゃい」
「はーい、行ってきます」

そうして彩音が乗り込んだリムジンは、氷帝学園を後にした。



「それにしても、本当にやるとはな」
「ふふっ…私もびっくり。10位以内って言われただけなのに、最後は2位だよ?でも柳くんとは1点差だったから、ほぼ首席みたいなもんだって」

あの日、仁王は彩音の両親が帰って来るのを待って挨拶した。
後日改めて、と言う彩音だったが、直ぐに、と言う仁王に折れたのだ。
両親の前に進み出た仁王の最初の言葉は――。

「初めまして。俺、仁王雅治と言います。高校を卒業したら、彩音さんと結婚させて下さい!」

――であった。

唖然とする両親に二人で話をして、両親は元々彩音の選ぶ人なら誰でもいいと思っていたので、仁王のことは割と簡単に認めた。
ただし、一つ条件を提示した。

『卒業まで10位以内の成績をキープすること』

仁王は元々賢いほうで、学年30位以内にいた。しかし文武両道がモットーの立海でそこから順位を上げるのはなかなかに大変であったが、仁王はその条件を卒業時には学年2位という成績でクリアした。

これは、目標をクリアすることを見るのではなく、もちろんそれも大切だが、その為にいかに努力するかを見たかったが為の条件であったのは秘密である。
そして両親は仁王を認め、幹部達を説得したのだった。

ジュリオには、二人でイタリアに行って話をした。
『何となく分かってたよ』と、少し切なげに微笑んだのが印象的だった。

「そろそろか」

車は立海に向かっていた。もちろん仁王に会うためである。彼には校門で待っているように伝えてある。

「うわー、すごい人ー」

見えてきた校門前は人だかりで、氷帝と似たような光景だ。
だがリムジンが門の前に止まると、流石に皆そちらを見て目を丸くした。

「…全く、派手好きめ」
「いや、跡部はこれくらいは普通だよ」

顔を顰める真田に幸村が笑って、リムジンなんか初めて見た!と丸井が驚く。
仁王は心臓の音が煩くて、そんな会話は耳に入らない。

先に降りた跡部が仁王達に一度目を遣り、恭しく手を差し延べる。その手を取り、すっと車から降りてきた彩音に、その場が静まり返った。

彩音は後ろをリボンで結んだ、白いフレアスカートのワンピースを身に纏っていた。途中で寄った店で着替えさせられたのだ。どうやら予め手配済みだったらしく、到着して直ぐに服を手渡された。再び車に乗った彩音が物言いたげに跡部を見ると、俺からの餞別だ、と笑ってくしゃりと頭を撫でられて、何も言えずに大人しく甘えたのだった。

光沢のあるシルクのフレアスカートがふわりと風に揺らめいた。白で纏められた彩音の姿はまるで…。

「彩音…うおっ!」
「彩音ー!可愛い〜!!!」
「か、海里っ!」
「綺麗だよ、彩音!」
「桜〜!」

やっと、搾り出すように出した声は、桜達によって掻き消され、仁王はパワフル女子4人に押し退けられてしまった。

「あーん!一緒に卒業したかったなぁ!」
「私もだよ…。卒業おめでとう」
「彩音もね!」

ワイワイと話す4人に囲まれる彩音はとても嬉しそうで、仁王は溜め息を吐くと、仕方なか、としばし見守ることにした。

「よう幸村」
「やあ。ありがとう、彩音を送ってくれて」
「構わねぇよ」

フッと笑んで彩音を見つめる跡部に、幸村が言う。

「君ってホント、彩音に甘いよね」
「そう言うテメェは違うのか?」
「…否定は出来ないね」

そう返されることは分かりきっていたのだが、つい口が滑ってしまった幸村であった。



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