[携帯モード] [URL送信]

今日も変わらず地球は回る
再会



一瞬だけ、ハッとした表情を見せ目を伏せた彩音は、次にはもう感情の読めない冷たい視線を立海メンバーへと…仁王へと向けていた。

「氷帝にいたのか…」
「一体、何なんだよぃ」

冷たく重い空気が彼らに纏わり付くが、それを幸村が一蹴した。

「みんな、今は試合に集中」

コートを、彩音を見つめる幸村に、皆、口を閉ざした。

「(彩音…大丈夫かな…)」
「……」

仁王の心の中は複雑だった。まるで嵐が訪れたかのように荒れていた。思考が上手く働かないが、今は目の前の試合に意識を向けた。

「動揺しとんなぁ」

氷帝側の忍足の、苦笑混じりの言葉に、跡部が不敵に笑んだ。

「それなら苦労はしねぇだろうよ」
「ま、そらそうや」

一筋縄ではいかないことは百も承知だ。
見つめる、というよりは睨む、に近い表情でコートを見る彩音を、跡部はぐいと引き寄せる。

「彩音」
「ちょっ、わ!」
「俺は負けねぇぜ」
「……分かってる。私は氷帝のマネージャーよ」

彩音は跡部の背に手を回しハグすると、ニコッと笑った。

「行くぞテメェら」

跡部がそう鼓舞すると、自然と沸き上がる氷帝コール。その中を、レギュラーメンバーはネットへと向かう。
それに合わせるように幸村が立ち上がると、こちらも応援が始まった。

ネットを挟んで向き合い一礼し、ベンチへと戻る。
敢えて会話などしない。というより、試合に私情を持ち込むなど以っての外だ。

「さあ行こう」
「始まりだ」

幸村と跡部が不敵に微笑んだ。



この試合は事実上、全国大会決勝戦のようなもの。
どちらが勝っても全国に進むことは出来るが、そういう問題ではない。
両校とも死力を尽くした……まさにそんな試合だった。
どの試合も僅差、もしくはタイブレークまで縺れ込み、集中力か体力のどちらかが切れるかで勝敗を分けた。

どれも素晴らしい試合だったのだ。
……しかし。

『優勝、立海大附属高校!!』

蓮華が彩音にしがみついて泣いていた。一般部員もだ。
だが、それを振り払ったのは、跡部の一言だった。

「まだ終わりじゃねーだろ」
「「!!」」

不遜に、不敵に、負けたことを感じさせない笑みを浮かべて、跡部がすっと手を挙げると。

「「…帝…氷帝!氷帝!氷帝!」」

どこからともなく沸き上がる氷帝コール。
昨年の中学の青学戦と同じ光景だ。
王はまだ、王のまま。



コートを出た彩音が跡部達に追い付くと、前方から幸村達がやって来た。
ドキンと跳ねる心臓を押さえはせず、凜と前を向いて歩く。

「全国で会おう」
「ああ」

幸村と跡部が言葉を交わす横を、それぞれのメンバー達が通り過ぎていく。
そして彩音とも擦れ違った丸井が、不意に立ち止まった。

「どういうつもりだよぃ?」
「……」
「ブン太」
「彩音、行くぞ」

幸村が咎め、跡部が促す。彩音は何も言わず背を向けたままその場に留まっていた。丸井は少し苛立った様子で彩音を睨んだ。

「何とか言ったら…」
「丸井!」

声を荒げる丸井を仁王が止める。物言いたげに二人を見て、丸井は足を動かした。

「すまんな」
「…いい。気にしてない」

一言だけ交わして、彩音と仁王はそれぞれ仲間達の元へと離れた。
幸村と跡部は複雑な心境である。

「悪い、跡部」
「いや。分からねぇ訳でもねーしな…」
「跡部。彩音を頼んだよ」
「分かってる」

幸村の言葉に頷いて、跡部達も別れた。
しばらく歩いて、幸村達が見えなくなった頃、彩音を見た跡部は苦しげに顔を歪めた。彩音は泣きそうで泣かない表情をしていた。
泣いてはいけない、と唇を噛み締める。自分が蒔いた種なのだから。

あの穏やかで柔らかな仁王の笑顔を見られないことは、やはり辛いけれど。



(100127)

[*←][→#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!