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今日も変わらず地球は回る
両手に華:1



ゴールデンウイークが過ぎると、部活にも俄かに厳しさと緊張感が漂い始める。
間もなく地区大会。いよいよ始まるのだ。

今年の氷帝は、昨年までとは違う。ここが高等部であるというだけでなく。
地区大会からレギュラーをフルメンバーで固め、気合い十分で望むつもりだ。

「おらおらぁ、どーした!?もっと気合い入れろよ!!」
「なんなん、なんか変なもんでも食べたん?」
「つか、マジありえねぇテンションだろ」

跡部はここでも1年生にして部長である。しごきにも似た練習内容にリタイア続出、残っているのはレギュラーのみ。
忍足と向日が疲れを見せつつも嫌味っぽく言った。

「この俺様が、氷帝が、そう何度も負ける訳にはいかねぇだろーが」

流れる汗を拭いもせずに言い切る。
よほど昨年の結果を拭い去りたいらしい。まぁ分からないこともないが。
なんせ1年生と試合をして負け、髪を……とそれはさておき。
そんな跡部を苦笑混じりに見つめ、彩音はタオルを差し出した。

「サンキュ」
「お疲れ様」

彩音も少し緊張している。地区大会、都大会まではいい。問題はその先だ。関東大会になれば否応なしに立海とは顔を合わせる羽目になるだろう。冷静でいられる自信が彩音にはなかった。

そんな彩音の不安をよそに、地区大会を優勝し、都大会。今回は当然の如く優勝した。
優勝に沸く部員達同様、彩音ももちろん嬉しい気持ちではあるのだが。

「関東大会…か」

不安は今だ拭い切れない。



都大会から数日後のこと。彩音に1本の電話が入った。

『やあ彩音』
「…ジュリオ」
『どうしたの、元気ないね』
「そんなことないよ。ジュリオこそどうしたの?」

会社のことなどでの電話は時々あったが、ここ最近は特に重要なこともなかったので話すことはなかった。

『彩音の声が聞きたかっただけなんだけど、ダメ?』
「だ、ダメじゃないけど」

流石イタリア人とでも言うべきか、いや、それだけでなく。ジュリオが甘い声音で告げると、彩音は少しドキッとしてしまった。

『実は今、成田なんだ』
「は…?」

成田って成田空港!?と驚く彩音に、今から蓬莱家に行くからねー、と返事も聞かずに通話は切れた。
ポカンと開いた口を塞ぐことも出来ず、携帯をパタンと閉じる。
ふと気付けば、先程から家が少し慌ただしい気がして、彩音はそこで漸くジュリオの言葉が本当なのだと分かった。

1時間と少しの後、彩音はジュリオとお茶を飲んでいた。
美味しいねぇ、と微笑む彼の意図が読めない。

『ジュリオ、本当にどうして突然来たの?』
『彩音の顔が見たかったから』
『……』

先程の電話と同じ様に甘い声音でジュリオは言って、彩音に笑い掛ける。本当にそれだけなのかは分からないが、彩音は彼を嫌いな訳ではないし、むしろ好きだ。その感情が身内としてのものではあっても。だから、会えて話せるのは嬉しいと彼女は思っている。

ジュリオは、彼なりに彩音との距離を近付けたいと思っていて、今日来たのは最近の電話での彼女の声に切なさが滲んでいることに気付いたからだった。そこに、あの男と別れたんだな、と気付くのも容易いことで。

お茶を飲み終えたジュリオは、彩音に『出掛けよう。思いきり可愛くしてきて』となんと耳元で囁いて、電話してくる、と居間から離れた。

「な…ジュリオ!」

鼓膜を震わせた柔らかい声に、流石の彩音でも顔を赤くせざるを得なかった。

それから彩音は、まぁせっかくだし、とジュリオの言う通りに可愛くして、彼と車に乗り込んだ。

『どこ行くの?』
『内緒』

意味深に笑うジュリオと訳が分からない彩音を乗せた車は、しばらくすると見慣れた豪奢な門をくぐった。

「え…?」

やはり訳が分からない彩音をよそに、車はエントランス前に止まる。降りるのかと思ったその時、玄関と車のドアが同時に開き、その家から出て来た男性が彩音の横に乗り込んで座った。
言わずもがな、跡部である。

『たく、何で俺様がお前に呼び出されなきゃならねーんだよ』
『だから迎えに行っただろ』
「え?え?」

ちなみに彼らの会話はドイツ語である。
唖然とする彩音に構わず車は再び発進した。

『で、どこ行くんだ』
『そうだなぁ…どうしよう?』
『ちょーっと待った!一体どういうこと!?』

これまたドイツ語で、彩音が二人の会話に割って入ると、二人はハタとして彼女を見た。

『まぁまぁ、彩音、どこか行きたいとこない?』

彩音の話はスルーしてジュリオが微笑むと、諦めたように彼女は息を吐き、少し考えて『動物園』と呟いた。



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