今日も変わらず地球は回る 繋がり 入学式の日の笑顔の圧力はなかなかの威力ではあったが、そこにいない女生徒達もいたわけで。 彩音が跡部達と一緒にいるのが面白くないファン達が、放課後に彼女を呼び出そうとした。 「蓬莱さん、少しいい?」 隣には忍足がいて、話の内容は直ぐに想像出来た。止めようと口を開き掛けた彼を、彩音が止めた。 いつかのような状況に、思わず笑みが浮かぶ。 「いいですよ。何でしょう?」 「え?」 「今ここで話せない内容だったら、私は受け入れることは出来ないわ」 ガタンと席を立った彩音が、腰に手を宛て言い放つ。 「悪いけど、景吾くんや侑士くん達と仲良くするな、という要求は飲まないし、飲む気はないから。彼らは私にとってとても大切な家族以上の存在なの。それに」 一度言葉を切って、彩音はこれ以上ない程綺麗に微笑んだ。 「私には他に好きな人がいるから、景吾くん達の誰かとどうにかなることは絶対に有り得ないわよ」 だからご安心を、と締めて彩音は鞄を手に取った。 教室を出た彩音を忍足が追う。 「彩音、仁王のこと…」 「…私は忘れない」 「……なぁ、マネージャーやらへん?」 「は?」 何故、突然そんな話になるのか分からず、彩音は眉を寄せて忍足を見た。彼女の心中を察して彼は先に言う。 「何となく」 「意味分からないよ」 「けど多分、跡部も言うと思うで?」 「何で?」 「何となく、勘や」 そう言って忍足は笑ったが、その言葉は間もなく本当の事となる。 部活に引っ張られてきた彩音は、跡部からマネージャーをやれと言われたのだ。 「私忙しいんだけど」 「それは俺も同じだ。それに蓮華一人じゃ大変だからな。手伝ってくれ」 そこまで言われては返す言葉が出てこない。 しかしマネージャーになってしまえば、絶対に大会で立海の皆に会ってしまう。出来れば避けたいところだ。 「逃げるのか?」 「そ……ハァ……分かった。やる」 そんなことはない、と言いかけて止める。諦めたように息を吐き、彩音は頷いた。 フッと笑んだ気配に顔を上げると、優しく見つめる跡部と目が合った。 「頼んだぜ」 「…うん」 跡部も幸村と同じで、理解はしても納得はしていない。立場上、彩音の気持ちは分かるが、それでも、彼女にとっての本当の幸せは別にある筈だと思う。辛い思いをした彼女には、本当に幸せになってもらいたいのだ。 マネージャーになることで何かが動く……その確信が跡部にはあった。それは今すぐではないだろうが。だがきっと。 「じゃ、後は頼む」 くしゃりと頭をひと撫でして跡部はコートに入っていった。 入れ代わりにやってきた蓮華が彩音に抱き着いて、ニコッと笑う。 「私、彩音とマネージャー出来るの嬉しい!」 「蓮華」 忘れるつもりがないのなら、少しでも繋がりのあるものに触れていてもいいだろうか。 人には忘れろと言っておいて、ズルイ女だ……自嘲するように心の中で呟いた。 (100122) [*←][→#] [戻る] |