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今日も変わらず地球は回る
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駅前で仲間達と別れ、彩音と幸村がマンションに着くと、既に迎えの車が到着していた。
車の傍らにいた運転手が二人に気付き軽く頭を下げる。

「お帰りなさいませ、お嬢様、精市様。お荷物はこちらでお預かり致しますので、どうぞお乗り下さいませ」
「ありがとう、ご苦労様」

後部座席のドアが開かれ、乗り込む。運転手が乗り込むと、車は静かに動き出した。
今日の部のことなど、他愛のない話をしているうちに、見慣れた景色から時折遊びに行く街の景色に変わっていき、夜でも沢山の人々で賑わう、中華街の料理店の前で車は停まった。
店内に入ると個室へと案内され、そこにいた蓬莱家の秘書がニコリと微笑んだ。

「お帰りなさいませ彩音お嬢様。お二人とも、まずはこちらにお召し替えを」
「「……」」

手渡された服を見て、二人は顔を見合わせて苦笑した。



「今晩は〜…」
「母さん…相変わらずだね…」
「あらぁ〜!二人ともすごく素敵よ!!」

着替えた二人が両親達の待つ個室に入ると、幸村の母が顔を輝かせて両手を合わせた。

二人が着ているのはチャイナ服だった。
幸村の母は、昔から彩音や幸村を着飾らせては写真を撮るのが好きで、それはもう趣味の域を越えるほどなのだ。
食事会や遊びに行ったりで会えば必ずという程着せ替え人形よろしく色々な服を着せられて写真を撮られていた。
その為、今日もきっと…という予感が二人にはあったのだが、やはりであった。

『シャキーン!』という効果音が付きそうな勢いで、早速カメラを取り出した彼女は二人を撮りだす。

「ホント彩音ちゃん美人さんだわ〜!精市もカッコイイわよ!」

シャッターを押しながら褒める姿はプロの写真家のようだ。本当に趣味とは思えない。
ただ、彩音も幸村も案外嫌という訳でもなく、彼女の趣味に付き合うのを楽しんでいる。

撮影会が終わると漸く食事となった。
中華街の中でも評判のこの店の料理は本当に美味しく、コースで出て来る沢山の料理に舌鼓を打つ。
二人とも最後のデザートまでしっかり堪能した。

お茶を飲みながら話している両親達から少し離れ、彩音は「ちょっと散歩しようよ」と幸村を外へと誘った。
真面目な彩音の表情を見て、幸村は理由を問うことが出来なかった。

観光地でもある中華街は、夕食の時間と重なることもあり、沢山の人で溢れていた。

その中を二人は歩きながら、幸村は特に目的があるわけでもなさそうな彩音を見つめていた。
少し歩いて雑貨を扱う店の前で、商品を取って見つめると、意を決したように口を開いた。

「私ね…秋に婚約を発表することになったの」
「…え?」
「…婚約を早めることになったの」

唖然とした幸村を見つめ、彩音ははっきりと告げた。
幸村は、彩音に婚約者がいて、大学入学の時に正式に婚約することは知っている。
しかしその婚約が早まることなど彼にだって予想外だ。
幸村が気になっているのはもちろん――。

「仁王のことは、どうするの?」
「……別れるよ」

間が開きはしたが言葉はハッキリしている。
幸村は彩音の覚悟を感じ取った。
だが、納得は出来なかった。

「俺は彩音が仁王が好きだと聞いた時から覚悟は分かってるけど……俺としては別れて欲しくない。君達二人には、互いが必要だよ、きっと」
「……もしそうでも、私の気持ちは変わらない。雅治を私の道に引き込むなんて出来ないから」
「引き込んじゃえば?」
「っ!」

幸村の言葉に、彩音はキッと彼を睨んだ。

「軽々しくそんなこと言わないで!」
「軽々しくじゃない。仁王に全て話せば、きっとあいつは―」
「それが嫌だから!雅治には雅治の道がある。私がその道を捩曲げるなんて嫌なの!」
「彩音…」
「もう決めたことだから」

こうなると、彩音は決して自分の気持ちを変えることはない。
幸村は結局、彩音が決めたことを受け入れるしか出来ないのだ。

隣を歩く彩音は泣きたいのを堪えるような表情だったが、前を見つめる眼差しは揺らいではいない。

幸村は一度目を伏せると、「俺はいつでも味方だよ」と、いつかのように微笑んだ。



(091213)

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