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今日も変わらず地球は回る
好きだからこそ:1



跡部家のリムジンの中は暖房がよく効いていてコートは必要ない。
少し乾燥しているのか、喉が渇いた彩音は出された水を素直に手に取った。

「…おいしい…」
「……」

跡部は何も言わない。彩音の表情がいつもと違うことを物語っていたから、彼女が自ら話すのを待っている。

本来なら蓬莱家の者が迎えに行き、彩音を跡部家へと送る筈だった。しかし、『日本に戻ったらすぐに会いたい』と送られてきたメールに、跡部は自分が迎えに行く事を蓬莱家に申し出た。
普通なら、戻ったらまず仁王のところへ行く筈で、そうせずに自分に会いたいと言うからにはイタリアで何かあったということだと跡部は思ったのだった。

しばらくの沈黙の後、彩音が口を開いた。

「…秋に、ジュリオとの正式な婚約を発表することになったの」
「……そうか」

それだけで、この先の彩音の行動が手に取るように分かってしまうのは、伊達に長い付き合いだからというだけではない。

「分かった。手配しとく」
「ん、ありがと」
「彩音」

跡部は切なげに微笑む彩音を抱きしめて、ぽんぽんと頭を軽く撫でた。
跡部の上着をぎゅっと握る彩音の手は微かに震えていた。

「……っ…」
「……」

それでも跡部は何も言わず、ずっと彩音を抱きしめていた。
今更何を言おうとも、慰めにも何にもならないし、彩音の覚悟は半端ではない。ただ、急な展開についていくのはとても辛いだろうから。それを乗り越える為に、今は涙を流すことが必要なのだ。

こんなに辛い思いをしてまで選んだこの道を『放棄する』という選択は、彩音の中に全くないことを跡部は知っている。
それだけ彩音は家やグループを愛している。



蓬莱家に着いた頃には、彩音の目は赤いものの涙はもう止まっていた。
ついと涙の跡を拭って、跡部は彩音を見つめる。その瞳に迷いはなかった。

「連絡する」
「うん。ごめんね、ありがと」
「謝る必要なんかねぇ。じゃあな」

彩音が降りると、リムジンは蓬莱家を後にした。
跡部は小さく息を吐くと、携帯を取り出しどこかへと電話を掛けた。



(091025)

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