今日も変わらず地球は回る 10 修学旅行3日目。今日も班行動で市内を回って、ホテルに戻って来た。 充実した時間を過ごすと、時の経つのがやたら早く感じる。 予定よりも少し早く戻った私たちは、空いた時間を女同士で話し込むことに費やしていた。 「もう明日帰りなんて早すぎるよねぇ〜」 「ホント。まだ帰りたくないね」 「帰ったら受験勉強地獄だよ…」 海里がげんなりして呟いた。 いくら内部進学と言えども立海たるもの、それなりの結果を収めなければいけないわけで。もちろん公立高校よりレベルは高い。 帰ったら、3年生は受験モード完全突入なのである。 「彩音はいいよね…頭良いし…」 「あのね、私だって勉強してるよ?」 「分かってるけどー。基本レベルが違うもん!」 ベッドにダイブした海里に苦笑を送って、そういえば何か飲みたくなったなぁと思った。 「私、飲み物買いに行ってくる」 「あ、あたしも行くー」 「じゃあ私も」 私に続いて桜と雪奈が立ち上がると、紅葉と海里も立ち上がり、結局全員で近くのコンビニに行くことになった。 そうなると、やっぱり飲み物だけで収まる筈がなく、籠の中にはお菓子も追加されることとなった。 そうして皆でコンビニを出たところで、ホテルの入口に雅治達がいるのが見えた。 少し遠いけど、あの集団はよく目立つ。 けれど、近付こうと一歩を踏み出した足を、思わず止めてしまった。 「……あれ、隣のクラスの子だね」 「あ、丸井君が声掛けられてる」 「……あ……」 「うん、雅治もだね」 ニコリと笑って言うと、桜が開きかけていた口をぱくぱくさせて気まずそうに私を見た。 そう。雅治や丸井くんは、それぞれ女の子と一緒に皆の輪から少し外れていった。 修学旅行という、非日常のイベントだから、ね。 「…気にしてないよ。予測済みだし」 「本当に気にしてないの?」 「ホントホント。さ、行こ」 心配そうな海里に笑いかけ、私は再び歩き始めた。 「まぁ仁王君て彩音にベタ惚れだしね」 そう海里が呟いたのが聞こえて、ほんの少しつきりと痛んだ胸のことには気付かないフリをした。 夕食の時間になり会場へ入ると雅治達も既にいて、私を見つけた彼が近づいて来た。 意識してはいなかった筈の、さっき見た光景が頭を過ぎり、上手く笑えなかった。 「…彩音、何かあったか?」 「え?何もないよ?料理、取りに行こ」 「…そうじゃな」 多分気付かれた。でも、これは私の感情の問題だし…。 雅治は、食べている時は皆がいたせいか、何も言わなかった。 夕食を終え部屋へと戻る中、エレベーターに乗ろうとした私の腕が引かれた。 「雅治?」 「ちと借りるぜよ」 桜達にそう言って、雅治は私を非常階段へと連れてきた。 背中は壁、両側には雅治の手。 逃げたりなんてしないのに…。 「様子がおかしいのは何でじゃ?」 直球で聞いてきた雅治の目は真剣で、その奥には少し不安の色が滲んでいるようだった。 トクンと鼓動が跳ねたのは、きっと私がすごくすごく雅治を好きで、大切で、失くしたくない存在なんだと思ったのと、雅治が本当に私を好きなんだと実感したからだと思う。 「…さっき、告白されてなかった?」 「え、何で知っとる…?」 「皆でコンビニ行った帰りに、女の子に声掛けられてるの見ちゃった」 「……」 「雅治の彼女だっていう自信はあるんだけど、やっぱりモテるなぁって思ったら……」 「それ、ヤキモチ?」 「…え?」 言われてはたと気付いた。そっか、そういうことかぁ。 思わず苦笑が浮かんで雅治に抱き着いた。 「うん、そう。私、結構独占欲強いみたい」 「彩音…」 雅治の腕が私を包んで、少しだけきつく抱きしめられた。 「俺は彩音だけのものぜよ?まこと、彩音は可愛すぎるのぅ」 ふっと微笑んだ雅治に私も微笑むと、温かくて優しいキスが降ってきた。 (090811) [*←][→#] [戻る] |