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今日も変わらず地球は回る
安らげる場所


仁王雅治は『セクハラ野郎』に位置付け決定だ!!



《安らげる場所》



昨日の図書室でのこと、今朝の隣のクラスの図書委員のことで少しだけ、本当に少しだけだけど仁王君のことを見直したというのに!!
さっきのあの行動で私の仁王君の格付けはランク外になりました。
またクラスの女子が噂話をしているし、仁王君はそんなことはどうでも良さそうに笑っているし、これまで2年間大人しくしていたのがすっかり台無しだ。
イライラしながら一日を過ごし、でも今日はスーパーの特売があるから寄らなきゃな、と昇降口を出たところで鞄から聞き慣れたメロディ(吉本新喜劇のテーマ)が鳴った。

「もしもし、侑士くん」

私は相手を確認せずに電話に出た。この曲に設定しているのは、彼、忍足侑士くんだけだから。

『もしもし、彩音。いきなりやねんけど、明日ヒマか?』
「私の予定は悲しいことにいつも真っ白だよ…」
『そうか!明日な、部活休みなんや。遊ばへん?』
「ホント?遊ぶ!絶対遊ぶ!!私の愚痴聞いてー!!」

さっきまでのイライラはどこへやら、私のテンションは一気にアップ。思わずスキップして帰るほど。
その光景を仁王君と柳君に見られていたのにも気付かずに。



さて、そろそろ私の身の上を少しお話ししなくてはいけませんね。
私、蓬莱彩音は東京の人間です。幼稚舎…いわゆる小学校時代は氷帝学園に通っていました。その時にいろいろありまして、中学は立海に入ったわけですが、その辺りの話はまたいつかにするとして。
『氷帝のキング』とか呼ばれている男子テニス部の跡部景吾くんとはお互いの祖父が友人で、家族ぐるみのお付き合いをしています。母親のお腹にいる時からの付き合いです。
それから、氷帝テニス部マネージャーの友人、白河蓮華とは幼稚舎で出会い、実は母親同士が知り合いだったという縁で仲良くなりました。
そんな繋がりから、氷帝テニス部の皆とはとっても仲が良いのです。

まだまだお話しすることはありますが、追々判ると思いますので割愛させていただきます。

そんなわけで、私はルンルン気分でスーパーに寄って食材をまとめ買いし、帰途に付いたのでした。
あ、言い忘れてましたが一人暮らししてます。東京から通うのって大変なので、立海の最寄り駅の前のマンションに住んでます。

「明日はどんな服着て行こうかなー」

いくつかの候補をベッドに広げて少し悩んで。こうやってお出かけの服を決めるのが楽しいんだよね!



朝になりました。
昨晩決めた服に袖を通し、服に合わせた鞄を持って玄関を出た。駅は目の前なのでとても便利…なのだけど。
ホームで電車を待つ間に刺さる視線が少し気分を悪くさせる。
自分で言うのもアレなんだけど、容姿は良い方に入るみたいです。でも皆見てるのは私の瞳なのだと思う。私はイタリア人のクウォーターで、緑色の瞳なのだ。それで黒髪ストレートとなればちょっとビックリなのでしょう。髪の黒さは父譲りだからしょうがないし。
気にしても仕方がないのは解っているものの、昔、この容姿のせいで嫌な事があったから、まだ気にしてしまう。
学校に眼鏡と三つ編みで行くのは、ひとつはこういう理由。瞳の色を隠すために、カラーコンタクトもしている。度は入ってないから、日常生活には支障ないのだけど。

やってきた電車に乗って東京方面へ。侑士くんたちがこっちに来てくれることもあるけれど、今日はどこかに連れて行ってくれるみたいだから今回は私が東京まで出て行くことにしたのだ。
駅に着くと、黒塗りのリムジン(相変わらずすごく大きい)の窓が開いて、景吾くんが手を挙げた。

「よぅ」
「久しぶり」
「乗れよ」
「うん」

慣れた感じで(実際慣れてる)リムジンに乗り込むと、氷帝テニス部レギュラーのみんなもすでにいた。

「彩音、おはよー!」
「ジローくんおはよー!…暑いんだけど」

芥川慈郎くんがムギューと抱き付いてきた。車内は空調が効いてはいるけど、くっつかれればやっぱり暑い。

「気にしちゃダメー」

朝からハイテンションだなぁ…まぁ、いいけど。久しぶりに会ったから私もお返しに抱き返した。

「ジローくんは癒しだわ…」
「おい、俺らを無視すんじゃねぇよ」

呆れた様子で言うのは向日岳人くん。

「…岳人くんもして欲しいの?」
「な、ちげーよ!」
「ほらほら、遠慮しなくてもいいよ?」

私がジローくんから離れて両腕を広げると、岳人くんはものすごく慌てていた。私にとってハグというのは慣れていることだけど、生粋の日本人だとそうはいかないんだろうね。

「何言ってんだよ!」
「ほな、俺が代わりにしたろ」
「ゆ、侑士!!」
「相変わらずええ抱き心地やなぁ」
「フフ、ありがと。侑士くんも逞しくなったねぇ」

…でも、侑士くんは岳人くんよりも遥かにこういうことには慣れてるみたい。そういえば、付き合う女の子は皆可愛い。あ、あんまり関係ない?

「はい、スキンシップはそこまでにして、行こうよ、例のお店」

このちょっとしたおふざけを止めたのは蓮華で、ニッコリ笑って私を見た。

「彩音っ!」
「蓮華っ!」

スキンシップはそこまで、って言ったはずの蓮華を私は受け止めた。

「ったく、お前ら激ダサ」
「煩い。亮ってば僻んでるのね!」
「はぁ!?」
「まあまあ、宍戸さん落ち着いて…」

蓮華が私を抱き締めたまま、宍戸亮くんに向かってニヤリと笑う。引きつった亮くんの顔が面白い。そんな亮くんを、ひとつ年下の鳳長太郎くんが宥める。
車内にはあと2人いて、滝萩之助くんは、静かに、でもクスクス笑いながら傍観していた。もう1人は樺地崇弘くんで、彼もぼんやりと私たちを見つめていた。

「おいテメェら、その辺にしとけ」
「はーい」

景吾くんの一声で、私たちは大人しく座った。
車は都心を抜けて、郊外へ。あまり見慣れない景色に私はボーッとしていた。

「美味しいチーズケーキがあるんだって!」

蓮華が私の気になることに気付いて言った。
チーズケーキかぁ…うわー嬉しいなぁ!大好きなんだよね、チーズケーキ!!

「ほら、この間愚痴ってたでしょ?だからさ」
「うわーん、蓮華大好きだよー!」

そう言って、私はまた蓮華に抱きついた。



ふわっとした食感が私を蕩けさせた。

「やだー、もー何この美味しいの!!」

泣きそうになりながらチーズケーキを食べる私を、蓮華とジローくんと萩之助くんと長太郎くんは微笑ましそうに、他の皆は呆れた様子で見ていた。
このケーキひとつで昨日の嫌な出来事も吹っ飛ぶ。

「幸せ〜」
「で、その後仁王くんはどうなの?」
「…っ!」

蓮華の一言に私は手が止まった。
…何で言うかな…幸せ気分が逃げるじゃないか…!

「彩音、愚痴聞いてって言うてたやん」
「そりゃ言ったけど」
「で?どうなの?」

私はホールだったチーズケーキを平らげて、紅茶を飲んだ。「平らげやがった…」と驚く亮くんは無視。

「まぁ、悪くはないよ…委員会は2回サボられたけどこの間は来てくれたし、隣のクラスの委員にも言ってくれたし…」
「じゃあ良かったじゃない」
「いいわけあるか、あのセクハラ野郎!!」
「セクハラ!?」

ちょうどジュースを飲んでいた岳人くんが吹き出した。

「岳人くんきたな!…いや、その」

慌てる私に向けられた視線は『仁王、ぶっ殺す』と言っているように見えた。いやぁ、愛されてるなー私!

「何された、アーン?」
「や、そんな、別に大した事じゃなくてね、腕掴まれて顔近付けられただけだし!」
「それは立派にセクハラや!仁王、許せんな…!」
「どうやって潰そうかしら?」
「蓮華まで!?そ、そんなのいいよ!やだー、私ってば皆に愛されてて幸せだなー!アハハハハ!」

ま、仁王君の印象が悪くなろうが気にはならないからいいんだけど。

「つーか、お前それってさぁ…」
「ん?」
「仁王に気に入られたんじゃねぇの?」
「は?」

亮くんの言葉に一瞬固まって、爆笑した。

「やーだ、何言ってんの!んなわけないない!」
「俺もそう思うな」
「景吾くん!?」
「あーやっぱり?」

えええー!?

「ホント頼むから私を面倒に巻き込まないでよ…」
「そりゃ無理だな。いつまでもそんな訳にはいかねーよ」
「わ…解ってるよ!」
「解ってねぇ」

景吾くんの言葉はかなりズシッときた。幼馴染みだけあって読まれてる。でも…

「まだ怖いよ…」
「……」

いっぱいいっぱいなんだよ、これでも。まだ、本当の自分を出すのは怖いんだよ。

「それは解ってる」

ポン、と乗せられた景吾くんの手は暖かくて、涙が出そうだ。

「大丈夫、私達がいるよ」
「彩音にはちゃんと味方がいるからね!」
「ジローくん…」

この人達だけが、私を私として見てくれる。
ここが私の、安らげる場所。



蓮華たちと楽しい時間を過ごした私は、駅まで送って貰って電車に乗った。
窓の外に、ある建物を目にして私は途中で電車を降りた。
もうひとつの安らげる場所へ――


ある部屋をノックする。中からの「どうぞ」という返事にドアを開けた。

「こんにちは」
「彩音…久しぶりだね」

真っ白いベッドの上から私を見た彼が、その、まるで女性のような綺麗な顔を綻ばせた。

「精市くん、具合はどう?」
「とってもいいよ。彩音が来てくれたおかげでね」
「もう、上手いんだから」

クスクスとお互いに笑い合って、ベッドの傍らに腰掛けると、精市くんが手を差し出したので私はその上に自分の手を重ねた。彼の手は、少し冷たく感じた。

彼は幸村精市くん。我らが立海大付属中男子テニス部の部長。
実は彼とも両親同士が友人で幼馴染み。景吾くんとはまた別なんだけど。
同じテニス部の部長同士だから顔見知りだし、それぞれ私と幼馴染みってことも知ってるけど、2人に直接の接点はない。
精市くんは現在、病気で入院している。

入学して、精市くんの名前を同じクラスに見つけた時は嬉しかったなぁ。あの格好の私を見てちょっと驚いてたけど、何にも言わなくても私のことを見破ってしまった。
私の事、私との関係を秘密にして欲しいと頼むと、二つ返事で解ってくれて、彼も私にとって、とてもとても大事な人。

「仁王と同じ委員になったんだってね」

精市くんの切り出しに私は思わずポカンとした。

「何で知ってるの…!?」
「風の噂」

…どんな風なのよ…と呆れると精市くんは微笑んだ。

「フフ、柳って風が昨日吹いてね」
「…あー…柳君ね…ていうか、何で柳君が知ってるんだろね」
「一人暮らしの条件だから仕方ないけど、ずっと学年3位以内キープは凄いし、ほら柳だから」
「私、静かな生活したいのになぁ…」
「……」

思わず呟いた言葉に、精市くんの表情が変わった。

「卒業まであのままでいるつもり?」
「もちろんよ。…私は今のままで充分」
「…そう…でも、そういつまでも続かないと思うよ」

今日2度目のこの言葉。

「でも…っ」
「怖いのは解ってるよ。大丈夫、俺はいつでも彩音の味方だから」

これも今日2度目。

「ありがとう、精市くん」

ふんわりと微笑む精市くんにつられて私も微笑んだ。
しばらく話し込んでいたけど、ふと気配を感じて私は立ち上がった。

「もう帰るの?」
「ん、お客さんが来る感じする」
「そっか、じゃあしょうがないね」
「また来るね」
「うん、待ってるよ」

話の間中繋いでいた手を名残惜しいけれど離して、私は病室を出た。
到着したエレベーターに乗り込む。入れ違いに降りた人を視界の端に入れたと同時に扉が閉まり、体が下に下がる感覚を覚えた。

「……ぎゃーー!!」

思わず誰もいないエレベーター内で叫んでしまった。
病室出といて良かった!まさか彼が来るなんて!!
視界に捉えた銀髪を思い出し、深く溜め息を吐いた。



その後の病室で、

「よぅ、具合はどうじゃ?」
「やぁ仁王……さすがだなぁ」
「は?」
「いや、何でもないよ。それより一人なんて珍しいね」
「まぁ、気が向いての。そうそう、さっきエレベーターのとこですごい可愛い子がおったぜよ」
「へぇ、見てみたかったなぁ(さっきまでここにいたけどね)」

なんて会話がされてたけど、私は知るわけはなくて。
でもこの日の私はとても幸せな気分で家に帰ったのでした。



(大事な人たちだけいれば充分で、これ以上傷付くのは怖いのです。
ヒロインはエスパー?(笑)いや、ちょっと勘が働く子なんです。そして人数が多すぎて動かせない!日吉がいないのはまだレギュラーではないからです)
(06/11/08)



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