今日も変わらず地球は回る 6 夕食はフランス料理のコースで、マナー講座も兼ねていた。 フルコースではなく、メインはお肉1品のコースだけど、氷帝じゃあるまいし、フランス料理に慣れた子がそうそう沢山いるわけもなく、皆講師の人の話を聞きながら料理を口に運んでいた。 それでもそんなに堅苦しい講座ではないから、話しながらになる。 離れた席で丸井くんが「あーめんどくせー!」と声を上げるのが聞こえてきた。 それに対して別の場所から「丸井、たるんどるぞ!」と真田くんの声が上がる。 「……二人とも、煩いよ」 口調は優しく、小さく、だけどみんなに聞こえた精市くんの声でホールの温度が2度ほど下がった気がするのは、気のせいじゃなかったと思う。 「ふふっ…テニス部ってどこにいても一緒だね」 「ホントにのぅ」 思わず呟くと、近くの席だった雅治が苦笑して相槌を打った。 夜はもちろん外出禁止で、女子と男子のフロアも行き来禁止。 だけどロビーだけは開放されていた。 「あんなんじゃ食った気しねー」 「ブン太まだ食べる気?ホントにお腹がたるんでくるよ」 「まさにデブン太だな」 「うるせーよぃ!」 そんな会話を後ろに聞きながら、私と雅治は窓際で外を眺めていた。 「明日は班行動だね」 「俺は彩音と二人きりでも構わんがのぅ」 「……私も」 お互いにクスリと笑って指を絡めれば、じんわりと熱が伝わって身体中を駆ける。 依存してるんじゃないかってくらいに、私は雅治のことが好きらしい。 「おーい、そこの二人、そろそろ部屋に戻るよー」 「おー」 精市くんの声で振り向くと、皆はもうエレベーターホールの前にいた。 先に行くよ、と乗り込んで行った皆を追って、私たちもエレベーターの前に立つ。 程なくして開いたエレベーターに乗って、ドアが閉まった瞬間。 「彩音」 「んっ…」 キスされて、そのまま壁際に押さえられた。 離してくれる気配はなくて、深く入り込んできた雅治を受け止めるしかなく。 エレベーターが開いたらどうしようとか、頭の片隅にはあるのに、求められるままに応えていた。 「……あー、やっとキスできたぜよ」 「……ま、さはる、てば…いきなり…!」 唇を離した雅治が私を抱きしめ呟いた。 少し乱れた呼吸を整えて、理由を聞こうと雅治を覗き見た。 でも、あまりに優しい顔で見つめてくるから、何も言えない。 「今日の彩音が可愛すぎるからじゃ。ずーっと我慢しちょった」 「もう!だからってこんなところで…」 「すまんすまん」 もう一度軽く口づけた雅治は、忘れとった、と階数ボタンを押した。 ……本当に、ドアが開かなくて良かったよ……。 男子の部屋の階で雅治と別れ、一つ上の女子の階に着いたエレベーターを降り部屋に戻るまで、身体も心もドキドキしてふわふわしていた。 「…彩音、顔赤いよ?あ、さては仁王君とイチャついてたな!」 「え、あ、その…」 部屋に戻っていた海里にビシリと指摘され、言い返すなんて出来るわけなかった。 (090722) [*←][→#] [戻る] |