今日も変わらず地球は回る 解禁! 《解禁!》 自分が不甲斐ないと思った。 初めは頼まれたから仕方なく引き受けた仕事だったけど、やっているうちにどんどん楽しくなってきて、今ではもう生活の一部とさえ思えていた。 だから、立海は優勝するんだって信じてた。 …まさか、こんな結果になるなんて。 大切な幼馴染みの成長が嬉しいのと同時に、ちょっとだけ憎らしかった。 みんな、悔しくはないのかな…。 ううん、悔しいんだと思う。 でもそれ以上に満足もしてるみたいだ。 だから私が悔しいと思うのはおかしいのかもしれない。 でも、私は悔しい。 優勝、してほしかったな…。 「あー、疲れた腹減ったー!!丸井先輩、どっか寄って帰りましょーよ!」 「お、いいねー!ジャッカルが奢るって!」 「何でだよ!」 「あはは、赤也はまだまだ元気だね」 「たるんどる!」 「弦一郎、今日ぐらいはいいのではないか?」 「全く…」 賑やかに帰るみんなを後ろから眺めながら、私は小さく溜め息を吐いた。 閉会式が終わってからずっと胸がズキズキ痛んでいる。 何の為にマネージャーになったのか。 みんなに申し訳なくて、情けなくて。 自然と下がっていった視線を上げることは出来ず俯いたまま歩いていたら、精市くんが驚いた様子で声を上げた。 「蓬莱さん!?」 「…え?」 その声に顔を上げると、私の目から大粒の涙が零れ落ちた。 「あ、え?やだ、何で私…」 精市くんだけじゃなく、みんなも他の部員達も驚いた顔で私を見ている。 「ごめ…ごめんなさい…」 何とか涙を止めようとするものの、後からどんどん溢れて追いつかない。 すっと差し出されたハンカチを素直に受け取り涙を拭いて顔を上げた私が見たのは、苦笑しているみんなだった。 「誰も悔しいなんて言うつもりなかったんだけど、蓬莱さんが代わりに言っちゃったね」 「ごめんなさい…」 「謝るな。確かに負けたのは悔しいが、悔いはない」 「それに、負けたのは蓬莱のせいではない。俺達が弱かったからだ」 真田くんと柳くんが諭すように言ってくれる。 頭では分かっているのだけど…。 「お前さんは気にしすぎじゃ。俺達はむしろ感謝しとるぜよ」 「そーっすよ、蓬莱先輩!」 みんなの言葉に胸の奥がジンと熱くなった。 「ありがとう…」 そして、お疲れ様。 翌日の部活が終わり、私の役目も終わった。 新しい部長は切原くんになった。 真田くんが「かなり不安があるがな」と漏らし部員達の失笑を誘い、ムッとする切原くんが「柳先輩、何とか言ってくださいよ!」と助けを求めたけれど相手が悪く、柳くんも「俺も不安だ」とあっさり切り捨て、その様子は何だかいつもの雰囲気と変わらなくて、明日からもうマネージャーではなくなるという実感が薄かったけど。 最後に部員全員が「先輩方お疲れ様でした!ありがとうございました!」と深く頭を下げた姿を見て漸くそれを実感した。 「これで本当に終わり…」 明日からはまた私は私。 もうみんなとの接点はない。静かな日々が始まるんだ。 そう思いながら着替えを終え更衣室を出ると、同じタイミングで精市くん達も部室を出てきた。 「帰る?」 「うん」 精市くんの言葉に頷くと、とても爽やかな笑顔で私を見た。 …何か企んでるようにしか見えないんだけど…。 「じゃ、マネージャーも引退したし、解禁ね!」 パチンと手を叩いてニッコリ笑った精市くんの後ろに先が尖った尻尾が見えた気がした。 「…は?」 「という訳で、一緒に帰ろう彩音」 「え?……ていうか名前…!」 名前で呼ばれたことに気付いて精市くんを見れば、さっきと同じ爽やかな笑顔。 「これでやっと彩音と幼馴染みだってみんなに言えるよ。ずっと言いたかったんだよね」 「…え」 「そういう訳じゃ、明日からもよろしくの、彩音」 「へ?」 仁王くんにポンと頭を撫でられた。 ……私にはもう2度と平穏な日々は来ないのね…。 (09.01.13) [*←][→#] [戻る] |