今日も変わらず地球は回る
受諾
さぁ、行きますか!
《受諾》
放課後になりました。みんな部活や家に帰る為に教室を出て行きます。
いつもなら、私も同じ様に家に帰るけれど、今日は違う。
仁王君、柳生君はまだ教室にいて、でも準備が出来たのかもう席を立っていた。こちらに来たところで私は2人を呼び止めた。
「あの、仁王君、柳生君、これから部活ですよね?」
「ん?蓬莱か。あぁ、そうじゃが?」
「私もご一緒しても宜しいですか?」
「え…それでは…」
「はい、最終的なお返事をさせていただこうかと思いまして」
「…そうか、分かった」
そして2人と一緒にテニスコートに向かう。前までならこの2人と一緒に歩くなんて全くあり得なかったから、何だか不思議な感じがする。
やっぱり私が一緒にいることで話のネタにされている。私はもう慣れてしまったからいいけれど、彼らには申し訳なく思う。本人たちが気にしているかどうかは別として。
「ちょっと待っとって」
そう言われて部室の外で待つこと数分。
「ええよ、入って」
仁王君に促され、部室内に足を進めた。前にここに連れて来られた時と同じく、レギュラーが勢揃いしていた。
もう後戻りは出来ないし、する気もない。
「お返事を、させていただこうと思いまして」
「うむ」
「…ですがその前に、お聞きしても宜しいですか?」
「何だ?」
「本当に私でなければ駄目なのですか?他の人では駄目なのですか?」
真田君は少し考えて口を開いた。
「ああ。蓬莱にしかうちのマネージャーは出来ないと思っている」
真田君の簡潔な答えを聞いて、フッと息を吐き、顔を上げた。
「分かりました…お話、お受けします」
「そうか、やってくれるか!」
「その代わり、いくつか条件があります」
「何だ?」
「当たり前の事ですが、私も3年ですから期間はあなた方の引退まで。図書委員の仕事を優先させること。恐らく不満を持つであろう生徒を納得させること」
最後の条件はなかなかに難しいかもしれないけれど。今まで頑に断っていたのにどうして、と不満に思う女子は多いはず。私だって多少の嫌がらせは覚悟している。
「分かった」
「それから…他の皆さんも私で宜しいのですね?何か不都合があれば遠慮なく言って下さい」
「学年3位以内の頭脳は有り難いな」
「元はと言えば、俺が推したんじゃし」
柳君が言い、反対するわけなかろ?と仁王君が笑った。
「私も今日のアレで納得ですよ」
と柳生君。いや、あれで納得されるのもいかがなもんかと。
彼らに続いて他の皆さんも頷いた。まぁ、一部の人は真田君の決定に逆らえないだけのようだけど。
「では、少しの間ですが宜しくお願いします」
深いお辞儀をして、私は顔を上げた。
「あの、それでですね…」
「まだ何かあんの?」
多分、2年生の子?――が、面倒そうに言った。
「…名前知らないレギュラーの人がいるんですけど」
あなたとか、と2年生の彼を指した。
「え」
「プッ…赤也カッコ悪!」
「丸井先輩ウルサイっス!…あんた、俺のこと知らねぇの!?」
「はい。あと、あなたも」
と、さっき吹き出したガムを噛んでる彼を指した。
「…マジ?」
「大マジです」
「…っははは!やっぱりマネージャーは蓬莱しかおらんのう!」
仁王君に大爆笑されて、2人は少し機嫌が悪そうだった。
「仁王、もういいだろう」
真田君が上手いタイミングで仁王君を制して、「俺が副部長の真田だ」と名乗った。柳君、仁王君、柳生君、桑原君が真田君に続いた。ガムの人は丸井君で、2年の彼は切原君と言うらしい。
「…分かりました。私は 蓬莱です。改めて、宜しくお願いします」
早速、ということで私は着替えてレギュラーの皆と一緒にコートに入った。案の定、集まっていたファンからのキツい視線を受けました。
あからさまに声を抑えず、「うそ、何で!?」と騒ぎ出している。
今、蓮華の気持ちがよーく解ったよ。
整列する部員に向かって真田君の横に立つ。
「全国大会へ向けて練習時間を増やす為、大会終了までマネージャーを取ることになった。…蓬莱」
真田君に促され、一歩前へ出た。
「今日から全国大会終了までですが、マネージャーを務めさせていただくことになりました、3年の蓬莱です。宜しくお願いします」
フェンスの向こうがざわついた。
ファンの子たちの間から「どういうこと!?」とか「断ってたんじゃなかったの!?」なんて言う声が聞こえてきた。同時に、キツい視線がさらにキツくなった。
うん、まあそりゃそうだろうな。
「これは部長の幸村とも相談してレギュラー全員一致で決定したことだ。よって、誰の文句も受け付けん!!以上だ。練習に入る!」
うわあ、言い切ったね。言い切ったよ!しかも言い逃げかの様にランニングに行っちゃったよ!
そんなんで誰が納得するんだよ、アーン!?(あら、また景吾くん口調が!!)
こりゃ、しばらくは確実に嫌がらせされるだろうなぁ。
ところで、部員は全員ランニングに出ていて、今コートには私だけ。それをいいことに、フェンスにくっついているファンの子たちが私に聞こえるように文句を言い始めた。
「どういう神経してるのかしら?マネージャーの話は断ってたはずなのに」
「ホントよね。あれだけなる気はないって断言してたのにね」
「許せないわよね」
怖ー!女の嫉妬って怖いな!!
彼らに色目とか使う気なんて更々ないっていうのに。
「我慢よ、我慢…言わせておけばいいのよ」
小さく呪文のように呟いて、私はドリンク製作に取り掛かった。
引き受けたからには、全うしてやる。
(そしてマネージャー誕生)
(08・03・04)
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