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短編小説@
竹と狐(上)


『此処から連れ出して…』


俺様の新しい主は、まだ幼い子供だった
第一印象は、明るくて、人懐っこい笑顔


戦というのは酷いもので
幼い子供だから…という理由など通じない

ただ、生きる為には勝たなければいけなかった

この小さな主もまた
戦う為の鍛錬を積む

正直、見ているだけで嫌になりそうなくらい…

主は日に日に顔色が悪くなっていった…
しかし、主は笑顔を絶やさなかった

ある日、無理が祟ったせいか
小さな主は熱を出して倒れてしまった

俺様はその看病へとあたった

数日経つと熱は収まっていったが、顔色が悪いのは変わらなかった

夜、小さな主の寝る部屋の前を通ると何か声が聞こえた

そっと主の部屋へ入ると
涼しい季節だというのに、びっしょりと汗をかいてうなされる主がいた

『弁丸様?』

声をかけても起きる気配はなく
ただただ、苦しそうに唸っていた

『そ…を…、…て』

『えっ?』

やがて、小さな主は涙を流し何かを呟いた
聞き取れずに聞き返せば
消え入りそうな声で言った

『某を…此処から連れ出して…』

ぎゅっと心臓を鷲掴みにされるような感覚に陥った

小さな主は、その笑顔の下に
一生懸命感情を押し殺していた

わかってた…
わかってたけど…


少し…寂しかった
俺様の前だけでも…
甘えてくれれば良かったのに…

俺様は心の中で、グッと小さな決意を固めた



『……誰でござる…?』


次の日
俺様は小さな主の前に立ちはだかった


狐の仮面をつけて…


『誰であるかは知らぬが、そこをどいていただけぬか?某は鍛錬に行かねばならぬゆえ…』

顔色も戻っていないのに…
まだ無理をする気なの?
俺様、そんな事は許さないよ

『なッ!?何をする!!』

ごめんね?
今回ばかりは主の命には従えません


小さな主を抱え上げると
そのまま城を後にした…

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あきゅろす。
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