短編小説@
大切な貴方へ…(中)
「政宗様…」
日はすっかり沈んだのに
未だ意識を戻さない政宗様の額のタオルを取り換えながら
小さく名前を呼んでみた
しかし、返事はない
「はぁ…。俺は…」
『片倉さん…。ちょっと良いですか…?』
政宗様の前だというのに
弱音を吐きそうになった時
襖の先から俺を呼ぶ声がした
「お前は…。さっきはすまなかったな」
そこにいたのは先ほど自分が取り乱して
思わず壁に打ち付けてしまったやつだった
『あっ、いえ…。筆頭が倒れたら誰だって取り乱します。片倉さんなら尚更…。それより、筆頭はまだ…?』
「あぁ…」
『そうですか…。……片倉さん。少し、お耳に入れたい事が…』
「あぁ。なら場所を変えよう」
俺はそいつを連れて自分の部屋へ移動した
「な…んだって…?」
そこで言われた事に衝撃を受けた
『筆頭…最近寝られてないみたいなんです。この間、たまたま夜中に厠へ行こうとした時なんすけど…、なんか筆頭の部屋から呻き声が聞こえて…。他のやつも聞いたみたいで。なんか、片倉さんを呼んでたみたいに聞こえたんすよ』
俺を…呼んでいただと…?
なのに俺は…
『それで、厠から帰る時、筆頭…縁側に座ってたんすよ。だから、悪いかとは思ったんですけど話しかけてみたんすよ』
そう言って
その日の事を話してくれた
『筆頭…こんな夜中にどうしたんすか?』
『ん?あぁ…、ちょっと…嫌な夢見ちまってな…』
『嫌な夢…?』
『あぁ…。最近よく見るんだ…。馬鹿らしいとは思うんだけどよ…』
『……もしかして、片倉さん絡みッスか…?』
『!?…なぜそれを…』
『さっきここ通った時に筆頭がうなされながら片倉さんの事呼んでるように聞こえたんで…』
『……そうか…。……小十郎が…俺を裏切る夢を見るんだ…。馬鹿みたいだろ?そんな事に不安になって寝れねーなんて…。だけど…、俺には小十郎が必要なんだ…。誰よりも…何よりも…。もちろん、天下取ってお前らを楽にしてやろうと思う。だけど…、俺の隣にあいつがいなきゃ…意味ねーんだ…』
『……筆頭…』
『…HA…。悪かったな、変なこと言っちまって…。小十郎には言うんじゃねーぞ?じゃあな。早く寝ろよ?』
『か、片倉さんは筆頭を裏切ったりしないと思います!!』
『Ah?』
『片倉さんも、俺達も…みんなみんな筆頭が大好きッス!!でも、片倉さんは誰よりも筆頭を大切に思ってます!!だから…絶対!!片倉さんは筆頭を裏切ったりしないッス!!』
『……あぁ…。ありがとよ。おやすみ…』
『片倉さんは…筆頭を裏切ったりしませんよね…?』
それを聞いて、いてもたってもいられなくなり
その部屋から駆け出した
愛おしいあの方の眠る場所へ…
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