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他版作
イザシズ小話 1※

例えばの話をしようよ。

え?嗚呼、シズちゃんはifの話何かしないもんねぇ、馬鹿だから。例えば――if――の話は、人間のオツムが利口な証拠だよ。起こりもしない事を仮定して、其れに対する対処を真剣に論議しちゃったりする事で、未来の自分を幻の厄災から守ったつもりになるんだ。凄いでしょ?
ゴリラや豚みたいな動物じゃ斯うは行かないよね、豚が“ぼくは将来食べられるかも知れないから、今の内に沢山美味しい餌を食べておこう”何て思うかい?普通思わないよねぇ、そうだよねぇ。
あ、別にシズちゃんがゴリラみたいとか思っての当て付けじゃないよ?ゴリラだって腹にナイフが刺されば赤い血ぐらい流れるでしょう、シズちゃんみたいな怪物と比べられるゴリラさんが可哀想だよねぇ。

嗚呼、もう、話が逸れちゃった。

全く、シズちゃんと会話してると独り言言ってる気持ちになって来て厭だよね。俺ペットとは会話しない派だから凄く馬鹿げた気持ちになるんだよ、返事しないお人形に話し掛けてもなぁ、やっぱり俺人間が好きだよ、人間が。あ、シズちゃんは嫌いね。
良いよねぇ、人間って。俺が予想も出来ないような素敵な事が今此の瞬間にも起こってるかも知れないって思うと、あぁ……ゾクゾクするよ。
俺が未だ見た事も聞いた事も感じた事も無いような人間の姿を、思わず此の胸に抱き締めて頬擦りしたくなる様な人間の愚かで滑稽で愛おしい姿を、とってもとっても、見たいなぁ。

はぁ。折角面白い物を探しに此の街に来たのに、何で俺シズちゃんに乗っ掛ってんだろ?
ねぇシズちゃんどう思う?
時間の無駄だよねぇ、とぉーっても無駄。シズちゃんみたいな単純暴力馬鹿と話してても何も楽しく無いしさぁ、馬鹿の一つ覚えだからずっと死ねと殺すしか言わないし。
偶にはバリエーション増やしてみたら?流石に俺も聞き飽きちゃったよ。

そうだ、例えばさぁ、俺達が愛し合う恋人同士だとしようよ。

アハッ!最高に面白く無いよねぇ。
でも其れが良いんだ、有り得たら死んだ方がマシってなる仮定じゃ無いと、ゲームは面白く無いでしょ?
でね、俺もシズちゃんの事愛してあげようと、一生懸命考えたんだよ。例えばさ、昔から独りぼっちで寂しい寂しいシズちゃんの頭を優しく撫でてあげたりとか、処女の女を抱く時みたいに丁寧に愛撫して広げた穴に、シズちゃんが悦びそうな玩具を腸一杯詰め込んであげたりとかさ。
あぁでも一番最高傑作だったのは此れだよ、斯うやって泣いてるシズちゃんの耳の中に唇を寄せてね、

「愛してるよ、シズちゃん」

シズちゃんの弱い心全部包み込むみたいに優しい声で濡れた頬を撫でであげて、愛おしげにそう囁くんだ。

あ、ハハッ!シズちゃん鳥肌立ってる!

全身ブツブツで気持ち悪いなぁ。あ、斯んな所迄鳥肌になってるよ。凄いなぁ……。
さぁ、次はシズちゃんの番だよ。
俺だって嗤い過ぎて椅子三つ壊すぐらい真剣に考えたんだから、其のお馬鹿なオツムで、精一杯俺への愛の言葉を考えてよ。
そしたら其れ外してあげる。もう動かない人形で遊ぶのも、飽きて来たしね。
ねぇシズちゃん、早く聞かせてよ。最後ぐらい、俺の事ちゃんと楽しませてくれるよねぇ?






「くたばれ、ノミ蟲」

顔面を所々紫に腫れ上がらせた男が固く閉ざしていた薄い唇を開き、大型の肉食獣が己の敵を威嚇する時の様な、本能的な身震いすら起こさせる低く地を這う声を出す。普段身に着けている青のサングラスは疾っくにベッドの下で粉々に割れ、唯の硝子片となっていた。変な方向に湾曲し折れた細身のフレームと、床に散らばる青い硝子片が、其の執拗な衝撃を物語っている。
破れたYシャツの間から覗く赤紫色の痣が生々しい男の腹の上に、公園のベンチに腰掛ける様に妙に寛いだ様子で尻を乗せた青年は、長い脚を組み、白いファーを着けたコートの肩先を竦めた。
そんな様子ですら妙に様になる唇の端に全てに対する嘲笑を含んだ青年は、いっそ愛おしさすら感じさせる程人を蔑み下ろし切った優しい視線で、自分がベンチ代わりにしている男を見下ろした。
シズちゃんはさ、

「馬鹿だよねぇ。自分の立場って物が、丸ッ切り解って無い。俎の上の鯉だってもっと必死に、無様に、助かりたいって足掻いてるよ?シズちゃんだって足掻うよ、無様に俺に泣き縋って、助けて下さいってみっともなく哀願しようよ。じゃないと、折角此処迄お膳立てした俺が、可哀想でしょ?」

何時だって自分勝手な理屈を捏ね繰り回す男は、自分が付けた胸の鬱血の一つに、先が細く綺麗に尖った爪を食い込ませる。容赦する様子も無くズブズブと沈んで行く爪先が或一点に於いてプツッと皮膚を裂き、裂けた肌の中から、赤い血が滲んで来た。
自らの皮膚の中にぐちゃぐちゃと爪を立てられても軽く眉を顰めただけのバーテン服の男は、「……殺す」と、ドスの利いた声で、低く自分に言い聞かせる様に呟いた。解放する為の怒りを、一つ一つ着実に、自分の中に積み重ねて行く様に。

「シズちゃんでも血は出るんだよねぇ、通常量の三十倍以上の睡眠薬飲んでも猛獣用の麻酔打っても死なない癖に、何でなんだろうね?」

シズちゃんは本当に何もかも滅茶苦茶だなぁ、と笑い乍ら、男は指に付着した男の血で、落書きを始める。指から一滴滴り落ちた血が裂かれた白いシャツの上に赤くて丸い染みを作り、殴られ腫れた男の頬へと、べっとりと塗り付けられる。

「アハハハハハッ、良い眺めだよ、シズちゃん」

指先に乗った真っ赤な血で描いた「肉」と言う字を見て、独り楽しそうに哄笑する男は、殺す殺す殺す殺すと小さく呪文の様に呟き続ける男の顎を指輪が何個も着いている長くて綺麗な指で掴み、れろり、と大きく舌を出した。自分が頬に描いた血の文字を、美味しそうに嘗め上げる。

「ハハハ、やだなぁ、シズちゃんの不味い血飲んじゃったよ。此れで俺もシズちゃんみたいなサイボーグになったりして。ハハッ、最低だなぁ」

自分など目に入っていない様子で、唯只管己を押さえ込む為の呪詛を吐き出し続ける男の鉄の味がする体液を全て嘗め取り、男は、自分の唇の端に付いた赤を、ぺろり、と酷く上機嫌そうに嘗め取った。







適当なイザシズで申し訳無い。
そもそも臨也は素手で暴力を振るわないだろう。素手なのはまぁ私の趣味です。
二つの話はそのまま繋げようとしたら何か違う物になったので、同じ話の二個の小話って事で。
臨也のウザさとシズちゃんの漢らしさの表現って難しいね。


2010.11・8


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あきゅろす。
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