シリーズ
おいでませ!ボカロ家族。〜カイト兄さんの憂鬱編〜
「お兄ちゃん…どうしたのー?」
ひょっこりお兄ちゃんの部屋を覗くと、室内がめちゃくちゃに引っくり返されていた。
「ああ…ミクーっ。どうしよう、見付からないんだ」
へにゃっと今にも泣きそうな顔をしたお兄ちゃんが振り返る。
部屋には、大量の譜面が散らかっていた。
「探し物してるのー?あ、これお兄ちゃんと歌ったやつだ」
足元にヒラヒラと舞い降りてきた譜面を手に取ると、二人で歌った曲だった。
懐かしいなぁ…。
あの時はリンちゃんもレン君も、まだこの家にいなかったっけ。
「めーちゃんと歌った曲の譜面が見付からないんだ。今日話してたら懐かしくなってまた一緒に歌おう、ってことになったんだけど…それだけ見付からないんだよー」
はあぁぁぁっと両足を抱え込んで、グスングスンと泣いている。
「お姉ちゃんなら謝ったら許してくれるよ。謝ってみたら?」
お兄ちゃんの側にちょこんと座った。
メイコお姉ちゃんはちょっと厳しいところもあるけど、とっても優しい人だから。
「ね」
ちょっと顔を上げたお兄ちゃんに笑いかけると、お兄ちゃんは私のを見て微笑んだ。
「…うん。素直に謝ってみ―」
「カイト!いつまで何やってるのよ」
お兄ちゃんが言い終わる前に、私が開けっ放しにしていたドアからお姉ちゃんが入ってきた。
「…何よこれ」
入口で片手を腰に当て、眉をひそめる。
お兄ちゃん、頑張って!
ちっちゃく拳を握って、お兄ちゃんに応援の視線を送る。
「あ…あーっあのねめーちゃん、実はあの譜面…なくしちゃったみたいなんだ」
ごめんね。と私に聞こえるくらいの小さな声でお兄ちゃんが呟いた。
瞬間大きなため息が聞こえて、ズンズンとお姉ちゃんが部屋の中にに入ってくる。
「ちゃんと部屋の物を整理しないせいでしょ。今度から気を付けなさい」
みょーんとお姉ちゃんがお兄ちゃんの頬を引っ張った。
「めーちゃん…」
離された頬をヒリヒリと押さえながら、お兄ちゃんがお姉ちゃんを見る。
「譜面が無くても歌えるわ。思い出の歌だもの。そうでしょ?」
お兄ちゃんのことを見下ろして、お姉ちゃんが挑戦的に微笑んだ。
でもそれが最大級の優しさだって、私たちは知ってるから。
「…っありがとうめーちゃんっ!一緒に歌おうね」
立ち上がったお兄ちゃんが嬉しそうに笑う。
よかったね、お兄ちゃん。
二人の横に立って、私もにこにこと笑った。
カイトお兄ちゃんとメイコお姉ちゃんとリンちゃんとレン君が私の家族で、私はとっても幸せです。
2009.11・24
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