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リドダン
Night prelude,Darkness finale. 前編
※ジェルシ+αになります。
大丈夫な方は下にスクロールしてどうぞ。









暗闇が世界を我が物顔で支配する、夜半過ぎ。
空を覆う黒き雲に―月もその身を隠す。

さぁ、闇の宴を。
暗黒の住人達が地上から光を奪い、心地よい永久の静謐を手に入れるための―前夜祭をしようか。



Night prelude,Darknessfinale.






「…以上で現在、我が勢力に反抗する屑どもを排除している次第です」

鬱蒼とした森の中に一つ聳え立つ、古びた館。
かつてはこの館の主と対面する場だっただろう大広間で、髪を短く切り揃えた若い男が段差の上の椅子へ向かい片膝をついていた。

階段の上、館主が座す精巧な細工の施された椅子へと腰掛けた男は其れを見下ろす。

腰まで伸びた真っ直ぐな金の髪に、蒼の瞳。

冷酷なほど整った貌に薄く笑みを張り付かせ見下ろす様は、まるで逆らうことすら許されない―独裁者。

「―それで?これだけ時間をかけておきながら、まだ〈不死鳥の騎士団〉とやらは壊滅出来ていないか?」

優雅に長い足を組み肘掛けに腕を乗せると、指先で軽く頭を支える。
声を荒げる訳でもなく発せられたその言葉に、面を伏せていたバーティ・クラウチ・ジュニアは息を飲んだ。

「っそれは、予想外に手強い奴等がおりまして―」

「それはあんたが弱いからでしょ?自分の獲物くらい、ちゃんと自分で狩りなさいよぉ」

顔を上げ言い募ろうとしたクラウチを女の声が遮った。

椅子から少し離れた段差に腰掛ける、癖の強い漆黒の巻毛に派手な黒いドレスに身を包んだ美女―闇の魔女ベラトリックス・レストレンジは、指先で髪を弄びクラウチに馬鹿にしたような笑みを向けた。

クラウチは前々から気に入らなかったその女にギロリと視線を送ると、すぐに唯一の主へと視線を戻す。

「それが、騎士団メンバーの居場所が巧妙に隠されていまして。あいつらだけでここまで出来る筈はありません、恐らくホグワーツのダンブルドアが―」

その名が出た瞬間、能面のような笑みでそれらのやり取りを聞いていた男の眉が、ピクリと上がった。
同時に肘掛けを一定リズムで叩いていた指先に、一瞬だけブレが生じる。

その男のごく僅かな変化に気付いたのは、椅子の斜め後ろ、白いローブを纏った人物だけだった。

「そうです!表向き沈黙を守ってはいますが、あの老いぼれが滓どもを庇っているせいで手が出せず―」

次第に激昂していくクラウチの右上、黒く塗った指先の爪を見ながらベラトリックスが言う。

「ダンブルドアってあれでしょ?600超えてるじじいの癖に見た目が30くらいっていう、化け物のことでしょぉ?」

「ヴォルデモート様。いっそ、ダンブルドアから消してしまえば―」

クラウチがそう言った途端、肘掛けを叩く音がピタリと止まった。

「―クラウチ」

低い低い、耳ざわりの良い声が大広間に響く。

その顔に表情は、ない。

深い蒼の瞳には、蛇のように冷たく残虐な光が浮かんでいた。

クラウチは射殺されたように動けなくなったまま、この命令に背けば間違いなく殺される、と本能が己に告げるのを感じた。

「は、い」

もつれる舌を必死に動かし、目を逸らすことも出来ないまま答える。

「ダンブルドアはお前等如きには殺せない。絶対に、だ。あいつは―俺の獲物だ」

噛んで含めるようにゆっくりと、両手の先を合わせどこか狂気すらも感じさせる口調で男―ヴォルデモートは告げた。

普段いっそ恐ろしいまでに冷静さを崩すことのない主の突然の怒りの原因を、クラウチは理解することが出来なかった。
階段に座り込んでいるベラトリックスも、恐怖にその身を震わせている。

金の支配者はスラリと立ち上がると、扉へと向かった。

「ワームテール、後はお前が片付けておけ」

扉の横、小さく震えていた少年のような見た目の青年に一瞥もなく通り過ぎると、バタンという扉の閉まる音だけが室内に響いた。

「…はい」

怯えた顔で呟いて、青年は瞼を伏せた。


青雷が去った後のような室内、クラウチ達の体はまだ、刻み込まれた恐怖によってカタカタと震えていた。
それらをずっと静観していた白いローブの人物は、主を追うため扉へと歩き出す。

その擦れ違い様、二人へ一瞥を向けた。

「―この、愚か者が」

横に結い垂らした、美しい銀髪。
その男とは思えないほどの美貌に浮かぶのは、氷のような冷徹さ。

地雷を踏んでその自覚もない者にかける言葉など、もうないわ。

スイと視線を戻し扉の横にいる存在を無視すると、その人物は部屋を後にした。



「ヴォルデモート様」

前方を歩いていた流したままの金髪にようやく追い付き、一歩後ろを並んで歩く。

「今度狩りに行く」

風を切るように歩きながらヴォルデモート卿―トム・リドルが告げた。

「御自らですか?」

銀の髪をサラリと流し、問う。

「このまま奴等に任せていても埒が明かないだろう。そうだな、次は―ジェームズ・ポッターにでもしようか?ルシウス」

自分より少し下、同じ蒼でも己のとは全く色合いの異なる澄んだ蒼に、面白そうに視線を送る。

「左様ですか。雑魚ですから、すぐに狩れることでしょう」

いつもと変わらぬ冷静な態度に、大仰に肩を竦めて見せる。

「何だ、昔の恋人が殺されるというのに随分と冷たいものだな。ポッターも哀れなことだ」

「全ては終わったこと、我ながら無駄な時間を過ごしました。ですが我が君―あの男は我が君が相手にするほどの男でもございません。私をご同行させ下さい。私が必ず、あやつを仕留めて参りましょう」

立ち止まり、左胸に手を当て綺麗に礼をするルシウスに、私は足を止めた。

「…ほう?ではポッターはお前が狩る、と?」

その姿を眺め、楽しそうに笑う。

「はい。御身を煩わせるほどのことでもごさいますまい」

礼をした体勢、そう答えたルシウスに―ヴォルデモートは会心の笑みを浮かべた。

「よいだろう。今度の狩り、お前も同行しろ」

言ってその身を翻す。

「有り難う御座います、我が君」

遠ざかる背に感謝の言葉を向けながら、私の心などあの方には全てお見通しなのだろう、と思う。

ジェームズ。

この身に闇を背負う私にはお前は眩し過ぎて、私はお前から逃げた。
お前からの愛を疑ったことなど、私には一度もなかったのに―

私がお前にしてやれることはただ、この手でお前を葬り去ることだけだ。

ゆうるりと瞳を閉じその瞳を開くと、ローブの端を翻し私は反対方向へと歩き出した。



ギィ、ギィ、ギィ、

歩を進める度、薄暗い廊下に耳障りな音が響く。

ルシウスがまだあの小僧を愛していることなど、とっくに知っていた。

「―手向けのつもりか」

くつくつと喉の奥で笑う。
ふとその深海色の瞳に、暗い光が宿った。

―先生。
あなたが俺以外の奴に殺されるなんて事、絶対に許さない。
あなたのその美しく憎くて憎くて堪らない命を奪っていいのは―俺だけだ。

暗がりの中、ついと杖を振る。

ドォォォンッ

瞬間、背後に面していた部屋の扉が全て粉々に吹き飛んだ。

「愛してます、先生」

舞い散る砂塵の中、あなたを想って微笑んだ。



目映い君。

直視することすら叶わないのなら、いっそその羽根を千切り棄て僕の闇まで堕ちてきて。
そして暗闇の中あなたのその綺麗な瞳に写ることが出来るのは、僕だけだ。






長いので一旦切ります。


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