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リドダン
You are my sweet & sweet lover.
自室に入ると、いきなり後ろから手首を強く掴まれた。
振り返る間もなくそのまま手首を後ろに引かれ、閉じたばかりの扉に背中がぶつかる。

「―っ」

いきなりの衝撃に軽く眉根を寄せると、ドンッと私の体をはさむようにして扉に両手を突かれた。

「先生今日あの女と、た・の・し・そ・う・に・話をしてましたよね?」

その子は少し高いところにある私の瞳を見上げて、にっこりと笑って言った。

―その瞳は、欠片も笑っていなかったが。

私は生徒であり恋人でもあるトム・リドルのいきなりかつ意味不明な言動に驚いたが、すぐにいつもの笑みを浮かべ取り敢えず聞いてみた。

「勉強していて分からないところがあったのではなかったのかな、リドル?というか動けないんだけど?」

するとその子はずいっと私に顔を近付け、

「あの雌猫、先生に気があるんですよ?優しくしたら付け上がります」

と言った。

―まったく私の話を聞いてない。

にこにこした顔に激しい怒りのオーラを出しながら、何やら失礼なことを言っている。

アルバスは心の中で深い溜息をついた。

勉強が口実だとは気付いてたが、こんな奇天烈なことを言われるとは思っていなかった。
しかし頭が(無駄に)切れる上に嫉妬深いこの子は、私が取り合うまでは絶対に諦めてはくれないだろう。

「もしかしてマクゴナガル先生のことを言っているのかい?マクゴナガル先生が好意を寄せている相手は、私ではないよ」

目の前にある瞳を見ながら、少し呆れて苦笑する。

変身術の教師であるミネルバ・マクゴナガルは、ストレートの黒髪を首の後ろできっちりと結ったきつい性格の美人だ。
生徒から誤解も受けやすい性格だが、生徒を思うその気持ちは誰よりも私がよく知っている。

そして彼女が想いを寄せている相手は、彼女にとっては学生時代の先輩で私にとっては無二の友である―今は天才錬金術師と呼ばれる、二コラス・フラメルだ。

横に垂らした前髪以外をオールバックにした灰色の髪、薄茶の瞳に縁のない眼鏡をかけた端正な容姿のニコラスは昔からよくモテたが、ホグワーツに入学したにもかかわらず錬金術の勉強ばかりをして、しかし成績は常に上位というかなりの変わり者でもあった。

冷静で毒舌家だが自らの正義に反することは決してしないニコラスと、優等生と呼ばれてはいたがその実好奇心が強く事件を巻き起こしてばかりだった私は何故か気が合い、同室だということもありよく行動を共にしていた。

学生時代が過ぎ長い年月が経った今でも、親交はずっと続いている。

ミネルバは、私たちと同じグリフィンドール寮の後輩だった。
彼女の気持ちには在学当時から気付いていたので、謂れのないことで失礼この上ないことを言われては彼女にとっても迷惑だろう。

「っ何で分かってくれないんですか!先生の鈍感ー!あの女が先生を見る瞳は、獲物を狙う時の雌豹の瞳なんですよ!?」

「………。」

いつも貼り付けている笑みをべりっと勢いよくはぎ捨て、私の体にぎゅうぎゅうと抱き付くとリドルは蒼の瞳を潤ませ憤慨に堪えない様子で叫んだ。

「あの間抜け半巨人もそうです!先生先生って、僕の先生にべたべたべたべたと…っ!あんな間抜けは、無駄に馬鹿でかい蜘蛛と暗黒の森あたりで心中すればいいんですよ!」

そしてまた私の体にぎゅうぎゅうと抱き付く。

私は多分、いやきっと恋人だろう少年に抱き枕よろしく抱き付かれながら、遠くを見つめた。

―恐らく、巨人族とのハーフであるルビウス・ハグリッドのことを言っているのだろう。
ハグリッドは見た目こそ恐ろしく見えるが、動物を愛する心優しい少年だ。
…後半は何を言っているのか分からないが。

私は軽く溜息をつくと、私の左肩に張り付いている金色の頭を撫でた。

「―トム」

リドルの動きがピタリと止まる。

「ハグリッドは私の大切な生徒だよ。君は私の―恋人だ。私のことが、信じられないかい?」

少し悲し気な笑みになる。
六百歳も年下で生徒でもあるこの子と付き合うことは、やはり覚悟がいることだった。

それでもこの子の気持ちを受け入れたのは―この子のことが、愛おしかったからだ。

リドルは弾かれたように顔を上げた。

「違いますっ!先生のこと疑ったりなんかしません…っ!ただ…っ先生が俺以外の奴と話すのが嫌で、俺以外の誰にも笑いかけてほしくなくて…っ先生のこと、誰にも渡したくなかった―」

私の瞳を見つめて必死に言い募る声が段々と苦しげなものになり、最後には俯いてしまう。

きっと―私がこの子に向ける愛が暖かな春の日差しならば、この子の私への愛は身を焦がすほどの灼熱。

同じ“愛”だとしても、その温度差が無意識にこの子を不安にさせるのだろう。

(私の曖昧な態度がこの子を不安にさせた、な)

大人としての矜持や些細な羞恥心で愛しい者を傷付けるなんて、私は何と愚か者だろうか。

俯くリドルの頤を指ですくうと、私はその唇に優しく口付けた。

「こんなこと、君以外にしないよ」

ビシッと驚いた表情で固まった恋人に、ふわりと微笑む。

(でもこうやって、二人の想いを溶け合わさせることは出来る)

「〜っせんせぇ…」

固まった状態から戻ったリドルは泣きそうに顔を歪ませると、私の首をぐいっと引き寄せ、唇にむしゃぶり付いた。

身長差で私の体が前に傾き、咄嗟にリドルの体に抱き付いてしまう。

「ん…っ、ふ、は…ぁ」

下から好き勝手に口内を蹂躙され、二人の吐息と濡れた水音だけが静かな室内に響く。

「ふ…、ぅ」

やっと絡まっていた舌が離れていく。
二人の唇の間につぅ、と銀色の糸が伸びた。

リドルは唇の端でそれをペロリと舐めると、私の首に回していた腕を解き、にっっっこりと微笑んだ。

「先生の気持ち、よ〜く分かりました!これで僕たち何の問題もありませんね。さぁ先生、今すぐ一つになりましょう!」

満面笑顔でそう言って、リドルは部屋の手前にある来客用のソファに私を押し倒した。

「…は?」

またしても急な展開に思考がついていかない。

魔法使いとして天才的な才能と機知を誇るアルバス・ダンブルドアは、その秀麗な容姿にもかかわらずホグワーツを恋人(むしろ妻)として六百年あまりを生きてきたため、恋愛面ではすごぶる鈍かった。

そして相手も悪い。

先生のためならたとえ火の中水の中、僕たちの邪魔をするものは誰だろうと殺しちゃうよ?な悪魔の子(むしろ悪魔の化身)トム・リドルである。
リドルはアルバスの上に覆い被さると、すいすいとその服を脱がせていく。

「ちょ、ちょっと待ちなさい。リドル」

―こんな筈ではなかったのだが。

若干ひきつった笑みで、嬉しそうに私の肌に触れているリドルを見上げる。

「大丈夫ですよ、先生。うんと優しくしますから。先生が俺以外のやつと出来なくなるくらい…ね?」

優しく微笑む表情に、もう後戻り出来ないことを知った―




翌日のホグワーツには、いつもより更に笑顔が晴れ渡った優等生の姿と、秀麗な眉をひそめ腰痛に苦しむ教師の姿があったとか。







2009.7・10


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