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迦陵頻伽―karyoubinga―
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【迦陵頻伽(かりょうびんが)】……サンスクリット語のkalavinkaの音訳。仏教において、極楽浄土に住む上半身が人間の女性で下半身が鳥だという想像上の生き物。その声はいくら聞いても飽きることはなく、その姿を見たものに福をもたらすともいう。妙音鳥、好声鳥などと意訳される。



迦陵頻伽
―karyoubinga―

第二夜●夜の帳




 夜更けの街。
 眠ることを忘れた都会は、色とりどりのネオンや夜空を照らすライトの明かり、客を誘う女達の甘い声に酔っ払った男達の罵声、そんなものたちで溢れ返っている。
 そこには明らかに昼間とは違う賑わいを見せる、街のもう一つの顔がある。
 しかしそんな喧騒も、通りから外れたこの路地裏までは届かない。
 離れた場所で夜通し繰り広げられるお祭り騒ぎが嘘のように、ここにはしんとした静寂が漂っている。いささか陰気でさえある。
 まるで別次元のようだ。
 その路地裏の、さらに夜の闇が暗く濃くなった場所に、その店はあった。

 『伽陵頻伽』

 金文字でそう書かれた黒塗りの分厚い扉の向こう側には、ボックス席が四つとカウンター、それに古い自動ピアノが置いてある小さなステージ。こじんまりしたつくりだが、なかなかに瀟洒で品がいい。
 その独特な、少しばかり時代遅れな雰囲気が好まれるのか、こんな寂れた路地裏にあるというのに、不思議といつもこの店は客でいっぱいだ。
 今日もボックス席はすっかり埋まっている。
 ほとんどが店の常連で、決して大声を出したりはしゃいだりしない。むしろ「我関せず」といった感じで、周りなど関係なく各々好きに飲んだり話したりしている。
 カウンターを囲んでいるのは愛想のないマスター、にやにやと口元に笑みを刷く常連客のD(ディー)、気だるげな雰囲気を全身に纏ったこの店の歌姫。
 さらに今日はもう一人。見事なプロポーションを持った女が、長い足を優雅に組みながらカウンター席に腰掛けていた。

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あきゅろす。
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