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 「どうして、象牙なんて?」
 俺は呆然とつぶやいた。
 「象牙というのはとても高く売れるものなのでしょう」
 「でも条約で禁止されてるはずだ。いったいどこの誰がそんなもの買うんだよ?」
 俺の問いに、シンは不思議そうに首を傾げた。
 シンは感情のない瞳でじっと俺を見る。その澄んだ瞳に、わけも分からず俺の胸がかすかに騒ついた。
 「知らないのですか?」
 「?」
 「密猟だと分かっていて買う国などいっぱいありますよ。あなたの国、ニッポンだってその一つではありませんか」


 その後、立ち尽くす俺たちから少し離れた場所に象が現れた。正真正銘の生きた象だ。
 シンは俺に写真を撮らないのかと尋ねてきた。
 俺は無言で首を振ると、さっさとジープの中に逃げ込んだ。

 車のガラス越しに子象たちへ目をやると、落ち窪んだ眼窩がじっと俺に向けられていた。
 もう何の意思も光も宿していない幼い瞳。
 優しそうな顔をした大きな動物。でも明らかに生命の抜けた、ぞっとするような雰囲気を漂わせている。
 それが大地に静かに横たわり、ただ無言で俺を見つめている。
 「もう行ってくれ」
 いたたまれなくなって俺が哀願するように言うと、シンは運転席に座りアクセルを踏んだ。


 結局その晩はまんじりともせずにテントで過ごし、翌朝早く俺たちは草原を去った。




 ホテルに戻って二日目の朝、思いがけずシンが俺を訪ねてきた。複雑な表情で出迎えた俺に、シンは穏やかな微笑を向けた。
 「明後日、ニッポンへ帰ると聞きました」
 「ああ」
 「その前に、ちょっと見て欲しいものがあります」
 シンに促されるまま、俺は彼の運転するジープに再び乗った。

 連れて行かれたのは草原だった。
 嫌な予感がしてシンの顔を見つめる。しかしシンは何も言わず、そのまま車を走らせる。
 しばらくすると少しひらけたところに人が集まっていて、何かを取り囲んでいるのが見えた。
 遠目にも分かるその巨大な山。
 あれはいったい何だろう?

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あきゅろす。
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