その他の短編小説 @ 本当のしあわせを誰もが口にするけれど、 本当のしあわせは簡単には手に入らないもの。 本当のしあわせを手に入れたければ、 決して探してはいけません。 本当のしあわせが欲しければ、 心に正直におなりなさい。 ただ毎日を懸命においきなさい。 そうすれば、 本当のしあわせは、いつかあなたの足元に、 素知らぬ顔でやって来るから。 風が告げる。 もうすぐ冬が来るよ。 風が誘う。 さあ、早く南へ渡ろう。 仲間たちはみんなその風に導かれるように旅立って行った。 はるか遠い南の国を目指して。 そうやって寒い寒い冬をやり過ごし、また来年元気にここへ戻ってくるために。 それが私たち渡り鳥の習性。生き残るためにご先祖様たちが編み出した知恵。 だから、私も旅に出なくてはならない。 生きるために。 仲間たちを追って、早くこの地を飛び立たなければ――。 けれど。 私はまだこの町にとどまっている。 期限は刻々と迫っているのに、私にはどうしても決心がつかないのだ。 「マチルダ、どうしたの?さあ、早く一緒に行きましょう?」 最後まで私を気遣って残ってくれた友達のグレタ。 ごめんなさい。このままではあなたまで巻き込んでしまう。 「お願い、グレタ。私を置いて、先に行ってくれないかしら?」 「駄目よ。そんなこと出来ないわ」 きっぱりと首を振るグレタに、私は涙が出そうになってくる。 「大丈夫だから。お願い、先に行って頂戴」 「駄目よ。あなたも一緒に行くのよ」 「でも……」 「ここはとても寒いわ。さあ、ここを出て南へ向かいましょう。みんなが待っているわ」 頑なな私を、グレタは必死に説得しようとしてくれる。 [次へ] [戻る] |