その他の短編小説
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心なき風に揺れる季節外れの一輪の花。
最後の花は誰のため。
最後のひとひらは何のため。
花はいつか必ず枯れるもの。
青い空によく似たその色に託した夢もいつかは消える。
土に還る。
空に還る。
後に残るのは夢の面影。
ただ名もなき花の名残り。
【花の名残り】
それが僕の所へ届いたのは、深まる秋に木々が金色に染まり始めたある日の事だった。
何気なく郵便ポストを覗き込むと、一通の手紙が入っていた。
枯草色の封筒に宛名だけが書かれ、住所も差出人の名前もない。切手も貼っていない。
ひょっとして誰かの悪戯だろうかとも思ったが、とりあえず僕はその手紙を開けてみることにした。
中にあったのは一枚の紙切れ。
封筒と同じ深い枯草色の小さな紙に、鮮やかな空色のインクで一言「私を忘れないで」と記してあった。
――『私を忘れないで』?
困ったことに、僕にはまったく思い当たるふしも思い当たる相手もなかった。
わざわざこんな手紙を寄越すなんて、家族ではないし、学生時代の友人でもない。
必要と思われる相手には、僕はいつも自分のほうから連絡を取っている。自慢じゃないが、年賀状や暑中見舞いの類は欠かしたことがないのだから。
「いったい誰だろう?」
ため息とともに呟いた途端、ポストの脇で何かがかさりと音を立てた。
不思議に思いつつ目を向けると、フェンスに絡ませたクレマチスの花が地面に落ちていくところだった。
一枚一枚、まるでこぼれるように花びらが散っていく。
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