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人は皆、時の河に浮かぶひとひらの泡沫。
過去から未来へ。
ただあてもなく流れて行く。
時は優しく、時は残酷に。

過去から未来へ。
永遠に向かって流れて往く。




時の河





 私は、時の河の渡し守。
 時の流れを見守り、人生を終えた人間を過去から未来へ運ぶのが役目。
 私には始めも終わりもない。この河の流れ、つまり時間と同じように、永遠不変の秩序の中にたゆたっている。

 さあ。また一人、時の河を渡るべき者が来た。
 私は船をゆっくり岸に近づける。
 今回の旅人はまだ若い女だ。
 私が手を差し出すと、女はにこりと笑った。
 「ありがとう。ずいぶん親切なのね」
 そう言って、人懐っこい笑顔を向けてくる。しかし私の表情は変わらない。
 別に不機嫌というわけではない。もちろん初対面の女に対して不快感を持っているわけでもない。
 永遠を生きるものの常として、私には感情というものが備わっていないのだ。『笑う』などという行為は、私には無縁のものだった。

 私は眉一つ動かさず、無言のまま船を出す。
 女は気にした様子もなく、かすかにほほ笑みを浮かべながら、じっと川面を見つめている。きらきら光る水が一定方向へ静かに流れていく。
 河の様子はとても穏やかだ。
 何もかもがいつもと寸分も変わらない。

 しばらくすると、
 「私、マリエというの」
 女は親しげに口を開いた。
 「私ね、病気で死んだの。夫とまだ小さい子供を残して」
 女の声はこの河と同じくらい穏やかだ。そこには現世への未練も後悔も感じられない。
 もっとも、そんなものがあろうものなら、この時の河を渡れやしないだろうが。
 私は視線を前方へ向けたまま、女の話に耳を傾けた。

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