その他の短編小説
B
それは確かにとても美しいけれど、反面ぞっとするような恐ろしい光景だった。
ここまでくれば、もう誰もがこの世界に終わりが近付いていると確信していた。目の前の非現実的な光景こそが、その何よりの証拠だった。
――世界は滅びる。
それがひしひしと全身に伝わってくる。
もうどこにも逃げ場はない。もうすぐ僕達は死ぬのだ。
僕は静かに彼女に寄り添うと、彼女の頬に鼻を擦りつけた。彼女はくすぐったそうに笑いながら首をかしげる。
彼女の長い首、そこに花のような形の痣があるのが見える。
彼女はみっともないと気にしていたが、僕にとってはチャームポイントに思えた。だって、彼女には言っていないが、最初に僕が彼女に目をとめたのは、その首の痣がきっかけだったのだから。
今となっては何もかもが懐かしい。何もかもが愛しい。
「……」
僕は、彼女の痣にそっと唇を寄せた。
「くすぐったい」
彼女が笑う。
それからまた恍惚とした表情で空を見上げる。
「本当に綺麗ねえ。こんな綺麗なものを、あなたと二人で見られて良かったわ」
「……ああ。そうだね」
僕も頷く。
もうどうだっていいんだ。世界が滅びることも。もうすぐ僕達がこの世から消えてなくなることさえも。
悲しみも苦しみも、何もかも、僕の中ではどうだって良くなってしまった。
今僕の心の中にあるのは、彼女のことだけ。彼女を心から愛しいと思う、その想いだけ。
「愛しているよ」
僕は言った。
狂ってしまった彼女に。精一杯の想いを込めて。
彼女はゆっくりと僕を振り向き、
「私もよ」
そう言って、満面の笑みを浮かべた。
それは僕が見た中で一番綺麗な笑顔だった。
「……」
七色に輝く世界を背景に、僕達はゆっくりと体を寄せ合った。
そんな僕達を祝福するように、嘲笑うかのように、空が、大地が、海が――、すべてが白く眩しく弾けた。
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