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B
 それでも僕たちにはどうすることも出来なかった。奴らは強く、僕たちは弱すぎた。
 それまで僕たちは、自分たちこそこの大地で一番勇気と知恵と力を持っていると信じていたのだが、奴らの力は圧倒的だった。奴らはまさに怪物だった。
 奴らはさまざまな道具や武器を使い、まるでゲームを楽しむように僕たちを捕らえて殺していった。
 僕の父も母も、兄弟も……。そして、トリシャ、君さえも。

 僕の目の前で捕らえられ連れて行かれる君の表情を、僕は一生忘れられないだろう。
 そしてあの時の激しい怒りと喪失感を、僕は忘れたくても忘れられない。

 「私のことはいいから、子供たちをお願い」

 そう君に懇願されて、僕は君を置いて逃げた。
 君の悲鳴を聞いて、奴らに捕まった君の姿を見て、何度も何度も引き返したくなるのを僕がどんな思いで堪えたか。きっと君にも分からないだろうね。
 僕はもう復讐する事より何より、君が残した宝物――僕と君の子供たちを守ることだけを考えた。
 それだけのために逃げて逃げて逃げて…どこまでも逃げ続けた。

 けれど………。


 トリシャ、君は僕を許してくれるだろうか?
 僕は結局、君の最後の願いさえ守れなかった。それを君は許してくれるだろうか。

 トリシャ。
 どうして僕だけが生き残ってしまったんだろう。どうして僕だけが死ぬことも許されないんだろう。

 トリシャ。大好きなトリシャ。
 僕の名前を呼んで。
 君のあの柔らかな声で、僕の名前を呼んでくれ。
 そうじゃないと、僕は僕が誰だったか忘れそうだ。

 奴らは僕に暗号みたいな勝手な名前を押し付ける。そんな名前でいくら呼ばれても、僕の耳は何も聞かない。
 奴らは僕を檻に入れて、僕を生かし続ける。
 奴らがつけた名前で、猫なで声で僕に呼びかける。僕を助けてやったのだとこれみよがしに言う。

 ――やめろ。

 やめろ、やめろ、やめろ!
 やめてくれ!!
 もう気が変になりそうだ。




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