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 翌日、行方知れずになっていた者たちとともに、五百重は村へと帰り着いた。

 無事に戻って来た五百重たちを見て、村人たちは大いに喜んだ。
 五百重の両親も許婚の両親も、二人の元気な姿を見て喜びの涙を流した。
 親や友達に抱き締められ、そして、誰よりも愛しい許婚に抱き締められて、五百重の瞳から涙がこぼれ落ちた。


 そうして、予定通り五百重は祝言を挙げ、翌年の春には女の子を産んだ。


 五百重はとても幸せだった。
 愛しい夫と愛しい娘と、優しい家族や友人たちに囲まれて、何もかもすべてが五百重の手の中にあった。
 だから、五百重はとても幸せだった。

 「暈音(かさね)……」

 幸せな気持ちで、優しい声で、五百重は愛しいわが子の名前を呼ぶ。
 それはかつて愛した女の名前。
 妖の身でありながら、人である自分を愛してくれた女の名前。
 そして、姿形も、性別さえも変わった自分を、それでもずっとずっと待ち続けてくれていた女の名前。
 「暈音」
 「なあに、母様(かかさま)?」
 無邪気に五百重を見上げてくるのは、あの日、五百重が浴びた妖の血と同じ色をした双つの瞳。人と妖、その両方の血を引く証。
 「暈音」
 その青い瞳に、五百重は優しく微笑みかけた。






《おわり》


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あきゅろす。
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