その他の短編小説
C
「ああ、楽しみ。いったいどんな風に変身できるのかな」
「僕だってすごく楽しみだ」
「カナタ、ちゃんと迎えに来てくれるかしら?」
「大丈夫だよ。昼間だって様子を見に来てくれていたじゃないか」
「うん、そうだね。カナタ、早く来てくれないかなぁ」
カナタっていったい誰のこと?
野ばらの実がどうかしたの?
そう思いつつも、目蓋が重くてどうにも目を開けることが出来ない。
駄目だ。眠い……。
ふいに目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。
「うー……。今、何時?」
枕元の時計を見ると深夜の二時を過ぎている。あれからまだ二時間しか経っていないんだ。
こんな時間に目を覚ましてしまうなんてついてない。さっさと夢の世界に戻らなくちゃ。
そう思って目を閉じたものの、なんだか妙に頭が冴えてしまってどうにも寝つけない。
「とりあえず、トイレ行こうかな」
ため息をつきながらベッドから下りると、足元に丸まっていたはずのルルとキキの姿がなかった。キョロキョロと見回してみたが、どうも寝室にはいないらしい。
二匹してトイレにでも行ったんだろうか?それともリヴィングで夜の運動会かな?
私はたいして気にもせず、部屋を出ると廊下を歩いた。
素足のまま部屋を出てしまったため、足の裏に感じるひんやりとした感触にますます頭が冴えてくる。
(そう言えば……)
トイレに辿り着く手前で、寝る前に見た銀色の満月のことを思い出す。
(見事な満月だったなぁ)
(そうだ――)
私はふと思いついて、行く先を玄関へと変えた。
「綺麗!」
ドアを開けて空を見上げると、真ん丸い月が誇らしげに夜空を飾っていた。やわらかな月光が地面にうっすらと降りている。
こんな時間に外に出るなんて久しぶりだ。
空気も澄んでいて、とても気持ちがいい。なんだか昼間とは別の空間みたいな気さえしてくる。
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