その他の短編小説
B
ベッドに入り、出窓のカーテンを閉めようとして、私は思わずその手を止めた。
「わぁ――」
深い藍色の夜空に、大きな銀色の満月が浮かんでいる。
「そっか。今晩は満月なんだ」
ぼそりとそんなことを呟く私の頬に、銀色の月光がやさしく降り注ぐ。それがとても心地いい。
私は少し考えてから、カーテンを開けたまま眠りにつくことにした。
満月を見ながら眠るなんてとっても素敵。
「おやすみ、ルル、キキ」
いつものように私の足元におさまった二匹にそう声をかける。
ルルとキキはそれぞれに甘えた鳴き声を出すと、やがて満足したように目を閉じた。
二匹の気持ちよさそうな寝顔を見ていると、途端に睡魔が私を襲ってくる。どんな睡眠薬よりも、この子たちの暢気な寝顔のほうがずっと効果があるみたいだ。
「明日は、ちょっと早起きしなくちゃならないんだよね」
そんな独り言を言いながら、私は深い眠りに落ちていった。
「……」
ふいに誰かの話し声が聞こえた気がして、私は夢見心地のまま薄目を開けた。
出窓から差し込む月光が、部屋の中をかすかに照らし出す。もちろん誰もいるわけはない。
「……夢か」
私は布団をかぶって再び目を閉じた。
すると、
「時間は大丈夫かな?」
子供のように高くて小さな声が聞こえた気がした。
不思議に思いながらも、すぐに納得する。
――ああ、私また夢を見てるんだ。
「平気。まだ夜はたっぷりあるもの」
それにしてもはっきりと聞こえてくるなぁ。まるですぐそばで話しているみたい。
ずいぶんリアルな夢だこと……。
「そんなことより、あの野ばらの実はちゃんと染まっているのかしら?」
「それは心配ないよ。今晩の満月の光を受ければ、お目当ての銀色になるって、カナタもそう言っていたじゃないか」
……いったい誰の声?何を話しているの?
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