その他の短編小説
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秋の夜長。
一夜限りの不思議な出会い。
道案内は、月明かりに照らされた自分の影。
魔法をかけたのは、誰―――?
【 銀 月 夜 】
庭の片隅に野ばらの芽が出ているのに気がついたのは、今年の春先のことだった。
どこからか種でも飛んできたのだろうか。気がつかないうちに、悠々と深緑色の茎を伸ばし、いつの間にかすっかり地面に根を張っていた。
引っこ抜くのは簡単だったが、なんとなく可哀そうに思ってそのままにしておいたら、初夏には可憐な白い花を次々に咲かせ、秋の訪れとともにたくさんの実をつけた。
紅く熟した実が、秋の陽射しにつやつやと輝いて、まるで宝石か珊瑚のように見える。薔薇というのは花も美しいが、これはこれでなかなかいいものだなと思って毎日のように眺めている。
「野ばらの実って、たしか健康にいいのよね」
そんなことを呟きながら、すっかり大きくなった薔薇の木を見ていると、私が飼っている二匹のシャムネコが足元に寄ってくる。
背伸びをするようにして、野ばらの実を眺めているのがおもしろい。
「ルル、キキ。あなたたち、まさか野ばらの実を食べる気じゃないでしょうね?」
私が笑いながら声をかけると、二匹は同時に振り向いて、
「ニャアーン」
愛想よく一言だけ鳴いて、また熱心に野ばらの実を観察している。
芝生の上にちょこんと並ぶそっくりな後ろ姿がなんとも可愛らしい。ときどきお兄さんのルルが、妹のキキの耳元に鼻先を持っていくのが、まるで二匹で内緒話をしているように見えた。
「変なの」
私は思わず笑ってしまった。
そして、そのまま二匹を庭に残して家の中へと戻った。
洗い物を済ませて、淹れたての紅茶を片手にリヴィングへと戻る。
あれから小一時間ほど経っているだろうか。ルルとキキが戻って来た様子はない。
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